第1 はじめに
M&Aが企業の成長戦略における重要かつ有効な手段として位置づけられ、規模の大小を問わず多くの企業が一般的な経営上の選択肢としてM&Aを採用するようになってから既に相当の年月が経過している。その間、企業はM&A経験を積み重ね、「新規事業開拓」「選択と集中」「時間を買う」など、企業マネジメントレベルのプレーヤーにとっては、M&Aの基本的な戦略的意義は既に十分理解されていると言える。
しかしながら、M&Aの中でも一段階複雑さが高まる企業間提携である、いわゆるジョイントベンチャー(以下略して「JV」という)構築の場面では、企業の売り買いという単純な取引の条件に加え、参画する各企業の参画を動機づける戦略的目的や拠出可能資源、当事者間での役割分担、JVの将来像など、検討すべきパラメーターが多数かつ複雑になる。
JVを企画する企業側では、JV組成時にこれらの検討を十分に行ったうえで、JVを企画するものの、JV組成をサポートするアドバイザーサイドでクライアントによるこれらの検討の細部を十分に認識できないまま、その戦略を十分に反映できていないJV契約が策定されることがある。また、JVを企画する企業の側で、そもそもJVを組成する際にどのような論点が存在し、どのような点に意識した形で相手方との協議を行うべきか、という検討が不十分なままJV協議が進んでしまう例も時折みられる。
本論稿では、JVにスポットを当て、JV組成時の様々な論点を紹介しつつ、企業がJVを構築する際のビジネス的視点を掘り下げ、かつ、それがJV契約という成果物に反映される際にどのような点に留意すべきか、という点について筆者の経験、雑感を紹介することにより、本論稿の読者がより深い視点でJV契約に取り組むことができるよう、考え方のフレームワークを示すことを目指すものである。
■筆者プロフィール■

尾城 雅尚(おじろ・まさなお)
2000年弁護士登録、2003年産業再生機構、2006年ゴールドマンサックス証券を経てTMI総合法律事務所に参画。M&A、特にカーブアウトM&AやJV等のアライアンス型M&Aを多く扱う。中心的産業分野は製造業、IT産業。主な著書として『実務逐条解説 令和元年会社法改正』(共著)(商事法務、2021)、『M&Aを成功に導く 知的財産デューデリジェンスの実務〔第3版〕』(共著)(中央経済社、2016)、『産業再生機構 事業再生の実践』(共著)(商事法務、2006)。