[M&A戦略と法務]

2025年9月号 371号

(2025/08/12)

M&A取引におけるTSA(Transition Service Agreement)に関する実務上の留意点

十市 崇(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
石原 慎一郎(同 弁護士)
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第1 はじめに

 Transition Service Agreement(以下「TSA」という)は、M&A取引に際して、対象会社又は対象事業(以下、本稿においてまとめて「対象事業」という)の円滑な移行を目的として、売主が一定のサービスをクロージング後一定期間、買主に対して提供することを約することを内容とする契約である。

 買主は、対象事業を買収後、直ちに自社の事業として運営を行っていく必要があるが、他の会社から譲り受けた対象事業を自らのリソースのみで円滑に運営していくことは、必ずしも容易ではない。そこで、対象事業の円滑な移行を目的として、とりわけ売主がクロージング前に対象事業に対して提供していたサービスを中心に、クロージングから一定期間、一定のサービスを提供することにより、対象事業の継続性を確保するという方法が採られることが多い。特に、対象事業が売主の子会社ではなく、売主本体からカーブアウトされる場合には、対象事業が売主又は売主の他のグループ会社から一定のサービスの提供をクロージング前から受けていることも多く、対象事業が売主グループを離脱する際に、上記のような調整が特に必要となる。そして、以下においても記載の通り、実務上、TSAの契約書案又はその骨子がM&A取引に係る最終契約(以下「最終契約」という)の別紙として添付された上で、最終契約において、TSAの締結が買主のクロージングの前提条件として規定されることも多い。

 本稿では、TSAを締結する際に、売主及び買主それぞれの立場から留意すべき点を検討する。


■筆者プロフィール■

十市 崇(といち・たかし)

十市 崇(といち・たかし)
TMI総合法律事務所パートナー弁護士。2000年4月弁護士登録。2006年4月ニューヨーク州弁護士資格取得。アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て2017年4月TMI総合法律事務所にパートナーとして参画。
事業会社の国内・インバウンド・アウトバウンドの各種M&A案件及びプライベート・エクイティ関連の業務を専門とし、製造業、テクノロジーセクターなどの幅広い業界の各種M&A関連の案件を長年にわたって取り扱う。各種トランズアクション対応に加え、会社法、ガバナンス対応、不正調査等を含む危機関連案件等、企業法務全般を幅広く取り扱っている。

石原 慎一郎(いしはら・しんいちろう)

石原 慎一郎(いしはら・しんいちろう)
TMI総合法律事務所アソシエイト弁護士。2011年12月弁護士登録。
2020年4月外務省国際法局経済紛争処理課勤務。2022年4月TMI総合法律事務所復帰。
M&A、通商分野を中心にクロスボーダー案件を取り扱う。国内及び海外の国際取引を扱うクライアントに対して幅広いアドバイスを提供している。

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