[業界動向「M&Aでみる日本の産業新地図」]

2015年9月号 251号

(2015/08/17)

第127回 物流業界~将来への危機感を反映するM&Aマーケット(上)

 澤田 英之(レコフ リサーチ部長)
  • A,B,EXコース

1.物流業界の事業環境と最近のM&A

  物流会社の業績が回復している。上場物流会社の前期実績は約8割の企業が経常増益だった。また、全日本トラック協会がまとめたトラック運送事業者の2013年度1社平均貨物運送事業収入は、前年度比プラス12.3%であった。景気の回復に加えてネット通販の普及による物流施設の拡充や、東日本大震災後からの復興需要の拡大、原油価格の安定などが背景にあるという。最近ではドライバー等の人手不足が伝えられているが、荷主との交渉によってこれを価格転嫁できているケースも少なくないようだ。2020年の東京オリンピック開催も、当面、物流業界の業績を後押しするとの声もある。

  しかし、物流業界の現状や将来を楽観的にとらえる見方は少ない。背景は次の3点である。

  1点目は顧客である荷主企業の変化である。荷主側においては業界再編や事業構造改革の進展、また、グローバル化に伴う海外進出、海外現地生産の強化が進んでいる。これに伴い荷主企業は物流機能の見直し、物流コストの削減、また、商圏・拠点の拡大及び見直しを進めている。また最近では、少量多品種や即日配送といったニーズも拡大している。このような荷主側の変化に物流会社は対応していく必要がある。

  2点目は、中長期的には国内人口の減少に伴って輸送量の伸びが鈍化しそうなことやドライバー等人手不足が深刻になる可能性があることだ。人手不足については、既に足元でも東京オリンピックのインフラ整備に向けてこれを懸念する声が高まっている。

  3点目は企業間競争の激化である。例えばトラック輸送では、2000年に5万5000であった事業者数が2007年には6万3000まで増加し過当競争が指摘されていた。その後も事業者数はほぼ横ばいであり、競争は緩和されていないと考えられる。

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