※本記事は、M&A専門誌マール 2025年6月号 通巻368号(2025/5/16発売予定)の記事です。速報性を重視し、先行リリースしました。
1. 米国が急速に変化している
米国が急速に変化している。周知の通り、2025年1月21日の第2次トランプ政権の発足以降、トランプ大統領は数えきれないほどの大統領令に署名し、イーロン・マスク氏が率いるDOGE(Department of Government Efficiency:政府効率化省)における政府機関職員・政府プログラムの大幅な削減、反ESG・DE&Iへの政策転換、そして、世界経済を大きく揺るがしている関税政策など、その動きはめまぐるしい。これまでの世界では数年に1度くらいしか目にしないような大きな政策発表が毎日のように行われ、また、発表された内容も週末を含めて毎日(または数時間ごとに)変化したり、取り下げられたりしており、その動きをフォローするだけでも精一杯の状況であり、その動向を予測することは至難の業となっている。また、実際には、あまりに多くの重要政策が短期間に公表され、実行に移されているため、十分な理解がなされないうちに、政策が実行に移されている場合も多く、こうした不確実性が日本企業の意思決定に与える影響も大きくなっている。
当職は、昨年3月より所属する法律事務所のニューヨークオフィス代表として米国に赴任し、こうした急速な変化を間近で見つめ、また日本企業からの相談も受けてきた。そうした中で感じていることを整理し、また、日本企業のM&A等に与える影響について考察をしてみたい(注1)。
2. 貿易対立・地政学的リスクの高まり・イデオロギーの対立
■筆者プロフィール■

梅津 英明(うめつ・ひであき)
森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士/ニューヨークオフィス代表
東京大学法学部・シカゴ大学ロースクール卒業。日本企業による海外進出・M&A、海外グループガバナンス、贈賄問題等を含む海外コンプライアンス対応、国際通商(経済制裁や輸出入管理、経済安全保障等)、「ビジネスと人権」を主要な取扱業務とする。新興国案件を含む多種多様な海外事案の豊富な経験をもとに総合的・複眼的な助言を提供している。日本経済新聞「企業が選ぶ今年活躍した弁護士ランキング」の2022年及び2024年「国際通商・経済安保分野」で首位。また、2023年「ビジネスと人権」分野でも首位。