- <目次>
- 導入と自己紹介
- 地政学リスクとM&A総論
- 日本およびグローバルで進む規制の強化
- 地政学リスクが日本企業に与える影響
- 日本企業独自のポジションを生かして、ビジネスチャンスにつなげる
- 主体的なプレーヤーとしてどう取り組むかが問われる時代
- 地政学リスクの把握の仕方-企業はどうやってその予兆や国際情勢の動向を把握するか
- 自らがどのようにしてインテリジェンスを収集していくか
- 攻めと守りのバランスをどう取るか
- シナリオプランニングが大事
- 動かないことがリスク
- グローバルスタンダードをどう捉えるか
- 地政学リスクに関する企業の対応
- 業界大手を中心に進む経済安全保障担当部門の創設
- 会社としての問題意識の共有が必要
- インテリジェンス収集後のアウトプットにおける日本企業と欧米企業の違い
- アウトバウンドM&Aと地政学リスク
- 進むサプライチェーンやマーケットの多角化の検討
- 多角化から内製化への流れも
- 地政学が米国、欧州へのM&Aに与えるインパクト
- 地政学がアジアへのM&Aに与えるインパクト
- ウイグル強制労働防止法の影響
- 地政学リスクが投資審査や外資規制に与える影響
- 地政学リスクが撤退に与える影響
- 地政学リスクが関税に与える影響
- 見直される日本企業への評価
- 人権とM&A
- 人権がM&Aに与える影響
- 人権の観点でのDDの重要性
- 契約書に落とし込むときの留意点
- いかに人権リスクに真剣に取り組んでいるかを明示的に説明すべき
- 人権DDはサステナビリティ経営とセットで重要
- インバウンドM&Aと地政学リスク
- 規制が厳しくなる対内直接投資
- 地政学リスクの低い日本へのM&Aが増える
- 外資締め出しの口実と受け止められかねない
- M&A紛争・投資後の争い方
- 今後を見据えた場合のデカップリングの議論
- 複数のマーケットに展開している企業はシナリオプランニングが重要
- おわりに
1. 導入と自己紹介
梅津 「近時、『地政学リスク』という言葉が新聞・メディアをにぎわすようになりました。ミャンマーでのクーデター、ロシアによるウクライナ侵攻などが相次ぐなか、日本においてはいわゆる『
経済安全保障推進法』が2022年5月に成立し、一部は8月から施行されており、『経済安全保障』や『地政学リスク』の議論が急速に展開しています。また、人権の分野においても、経済産業省が『責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン』の案を出すなど、これまでには見られなかった動きが進んでいます。『地政学リスク』それ自体がM&Aを直接的に促進させる要因にはなりにくいですが、世界的な規制強化の動きや企業に対する人権尊重の要請の高まりなどを考えると、M&Aにあたって無視できないファクターになっています。そこで本日は、『地政学リスクとM&A』をテーマに、この分野の専門家の方々にお集まりいただいて議論させていただきます。M&Aの動向に加えて、日本の企業がこの動きをどう捉えるべきか、これは日本企業にとってリスクなのかチャンスなのか、そういったところも含めて議論できればと思っています。
皆さまのご紹介をさせていただきます。Brunswick Group LLP. 日本事業統括 パートナーの土屋大輔さん、PwC税理士法人 国際税務/ディールズタックスグループ パートナーの山口晋太郎さんです。皆さまどうぞよろしくお願いいたします。司会・進行は私、森・濱田松本法律事務所の梅津英明が務めさせていただきます。
まず私から自己紹介させていただきます。私は森・濱田松本法律事務所でパートナー弁護士をしています。専門という意味では、
クロスボーダーのM&A業務から始まって、直近では海外での危機対応、あとは通商法と呼ばれる分野の業務も多く、今でいうと経済制裁や輸出入管理などです。特に今年はロシアとウクライナの事象がありましたので、対ロシアもしくは対ベラルーシ制裁といったところのアドバイスや、人権の分野では、地政学リスクの影響を大きく受けるビジネスと人権に関する分野を中心に取り組んでおり、まさに今地政学リスクを弁護士の目からどう見るか、こういったご質問や、役員の方々への研修のご依頼なども多く頂いている状況です。今日は大変楽しみにしております。よろしくお願いします。それでは、土屋さんからお願いします」
土屋 「土屋大輔と申します。英国の戦略アドバイザリー・ファームBrunswick Groupの日本ビジネス統轄をしています。外務省に15年ほど勤めて、10年前にBrunswick Groupに入りました。Brunswick Groupは企業の重要課題の解決に特化したアドバイザリー・ファームで、M&A、危機対応などの場面で、顧客、取引先、従業員、投資家、政府、メディア、NGOなど、360度全方位のステークホルダーに対し、どのように接していくかをアドバイスするビジネスを行っています。外務省時代には例えば米軍基地問題など地政学と直結するような仕事もしていたのですが、Brunswick Groupで企業にアドバイスする業務にあたり、これほどまでに地政学の話が仕事にかかわってくるとは考えていませんでした。本当に梅津さんがおっしゃった通り、すごく大事なテーマになってきていることを痛感しています。よろしくお願いいたします」
梅津 「ありがとうございます。では、山口さんお願いします」
山口 「PwC税理士法人パートナーの山口晋太郎と申します。私は米国連邦裁判所勤務を経まして、2006年からニューヨークを拠点に国際法律事務所、会計事務所で主に欧米多国籍企業のクロスボーダーM&Aの税務を手掛けてきました。そして2017年からPwC税理士法人で日本企業の米国を中心としたアウトバウンドM&Aに関する税務アドバイスを提供すると共に、インバウンド・リーダーも務めております。PwCは『社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する』ことを自社のパーパスと掲げていますが、これにはビジネスの領域を超えて多様なステークホルダーとの協力が不可欠となります。私もPwC155ヶ国のグローバルネットワークを代表して様々な国際会議に参加し、国際機関、NGO、シンクタンク、学者の方々と、気候変動、食糧安全保障、貿易等の政策に関して対話を持たせていただいています。昨今、地政学が日本企業において非常に感度の高い問題になってきていますが、PwC Japanグループでも2021年10月に経済安全保障・地政学リスク対策支援チームを立ち上げ、地政学リスク、リスクコンサルティング、知財戦略、サプライチェーン、サイバーセキュリティ、税務、法務など幅広い分野でサポートさせていただいています。本日はよろしくお願いいたします」
2. 地政学リスクとM&A総論
日本およびグローバルで進む規制の強化