1. はじめに 新型コロナウイルス流行拡大から2年以上経過する中、ロシアによるウクライナ侵攻・原材料価格の高騰や急速な円安といった外部的要因が加わるなど厳しい経済情勢が続いている。特にコロナ禍以降の資金繰り施策等を通じ財務状況が悪化した企業にとっては、過剰になった債務の削減が大きな課題となっている。
このような状況下において、財務の抜本的改善を目指す私的整理により再建を目指すケースが増加してきている。2022年に入ってからは大型の
事業再生ADR案件をはじめ
私的整理案件も増加傾向にあり、当職が申請代理人として関与したマレリホールディングス(以下「マレリ社」)の事例という事業再生ADR手続から簡易再生手続に移行した日本初の実例も出ている。マレリ社の事例では、近年改正された
産業競争力強化法(以下「産競法」)の規定を活用した簡易再生スキームにより、申立てから再生計画案の可決・認可まで25日間と極めて短期間にて、金融債権者のみを対象とし事業再生ADRにおける事業再生計画案と実質的に同内容の再生計画案が可決・認可された。
また、政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」において、裁判所の認可の下で事業再構築等に向けて多数決により権利変更(金融債務の減額等)を行う制度(いわゆる私的整理における多数決原理の導入)について検討が進められるなど、企業再生に係る法制度について新しい議論も行われている。
本稿では、マレリ社の実例を踏まえ、企業再生の最新実務を解説する。
2. 近時の事業再建手法~一次的再建手法としての私的整理~ コロナ禍・円安・ウクライナ情勢等の外的要因に起因する業績・資金繰り悪化に苦しむ企業への処方箋として、金融機関からの借入のリストラクチャリング(リスケジュール(注1)・債権放棄(注2)等)を含む抜本的な財務再建が考えられる。
このような一歩進んだ事業再建策の手法としては、「全ての取引金融機関との合意のもとで行われる私的整理」と「裁判所の下で多数決原理により行われる
民事再生・会社更生といった
法的整理」の二つが存在する。現在の日本の実務では、事業価値毀損の最小化等の観点から私的整理手続が一次的再建手法として定着してきた。他方、金融債務以外の通常の取引債務もリストラクチャリングの対象となり得る法的整理手続もより抜本的な財務再構築として選択肢となりうる。
3. 簡易再生手続について マレリ社の事例において利用された簡易再生手続とは、