[Webマール]

(2023/05/29)

売り手側FAとして地位確立するUBS証券~クレディ・スイス買収による機能強化も

安藤 浩二(UBS証券 投資銀行本部 M&Aアドバイザリー部 統括責任者 マネージング ディレクター)
  • A,B,EXコース
ポイント
〇欧州発祥の世界有数のグローバル・インベストメント・バンキング・ハウスと自負
〇東芝や日立物流の案件など、日本の大型案件に関与し、近年存在感
〇買収予定のクレディ・スイスとは、投資銀行業務でも地域/セクターで相互補完的
UBSの成り立ちとM&Aの歴史

―― UBSの投資銀行部門はどのような体制ですか。

「UBSは、約3兆米ドル(400兆円超)の投資資産を預かる世界トップクラスの富裕層向けビジネス部門が中核です。そして、幅広い資産クラスの多岐な運用ソリューションを提供する世界最大級のアセット・マネジメント部門、専門的な分野で業界をリードする証券部門、そしてスイスでの個人や企業顧客に対する銀行サービス部門を擁します。

 その中で、企業のM&Aや資金調達のサポートなどの投資銀行業務を担う私たちのグループは「グローバルバンキング」と呼ばれています。市場部門である「グローバルマーケッツ」とともに証券事業を構成しています。過去にはイギリスにおける名門投資銀行であったSGウォーバーグ、アメリカの名門投資銀行であったディロン・リード、そして個人向け資産運用に強みを有するウォールストリートを代表する証券会社であったペインウェバーなどの老舗の証券会社を買収し、世界的にプレゼンスを築いてきました。直近では、クレディ・スイスの買収も予定されています。より充実したサービスを提供することを可能にする、とても意義深い買収であると考えています。

 各部門は密に連携しています。特に強力な富裕層向けビジネス部門と連携できることは、他の金融機関にはない当社独特の強みです。また、グローバルマーケッツはエクイティ業務に競争力を持っていることで、世界的に知られています。リサーチとともに投資銀行業務における競争力の支えになっています。

 日本法人ですが、日本ではおよそ600人の社員が富裕層向けビジネス、アセット・マネジメントおよび証券の3つのグローバル事業に取り組んでいます。外資としては最も早く日本に参入したグループとして1965年に最初に事務所を設立して以来、日本経済の発展にコミットしてきました。2021年には、三井住友トラスト・ホールディングスと合弁で設立した富裕層ビジネス、ウェルス・マネジメントに特化する証券会社UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントが営業を開始しました」

日本の投資銀行本部の特徴

―― 日本法人の投資銀行本部の体制や取り組みは。

「日本法人の投資銀行本部は約40人のプロフェッショナルで構成されています。この陣容で、M&Aアドバイザリー業務や資金調達業務といったインベストメント・バンキングのフルサービスを提供しています。この人数は、国内の証券会社、他の外資系投資銀行と比較すると少ないほうかもしれませんが、私たちは敢えて少数精鋭に拘ることで、ベストなサービスを提供できるという強い信念と哲学を持っています」

―― 少数精鋭に拘るのはなぜですか。

「お客様に真に付加価値の高いサービスを提供するためには、バンカーの多寡ではなく個々のバンカーの能力・クオリティとチームワークが重要であると思っているからです。20年超の経験を有する優秀なシニアバンカーが自ら日々の業務の陣頭指揮をとり、やる気と責任感に溢れた中堅・若手バンカーとで構成された少人数のチームが一丸となり、常に緊密に連携を取りながら全員が全体を把握し、案件の提案段階から完了に至るまでサービスを提供できることが強みです。セクターチームやプロダクトチームがサイロ化することなく、お客様のためにアイディアを出し合い、ベストなアドバイスを提供するための40人の少数精鋭体制であると考えています。なお、案件の局面によっては、大規模なチームを組成する必要がある場合がありますが、当然必要なリソースは惜しみなく投入する方針です」

―― 海外の投資銀行の拠点とはどう連携していますか。

「世界の主要な市場に投資銀行拠点があり、そのビジネスは、APAC(アジア太平洋地域)、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ地域)、そして米州の3つからバランス良く構成されています。一般的に米系投資銀行では、アメリカを中心にビジネスが行われることが多いですが、UBSは、各地域が3分の1ずつというイメージで、APACの位置づけが相対的に高いと考えています。この3地域をセクターチームとプロダクトチームが横串を通す形で緊密に連携しています。このグローバルな連携は、極めて円滑に行われていると自負しています。

 日本はAPACの一員としてグローバル・チームと緊密に連携しつつ、日本流のビジネスのやり方を追及するための独自性が認められています。日本の投資銀行本部長には、ロンドンにいるグローバルヘッドに直接レポートしつつ、大きな裁量が与えられています。私は、香港などを経由せずに、直接ニューヨークとロンドンにいるグローバルのM&Aの共同責任者と緊密に連携しており、クロスボーダーのM&A案件において必要な海外M&Aバンカーを動かせる立場にあります。

 私自身、UBSに入社する前まで、18年半にわたり米系投資銀行に在籍していましたが、今まさにグローバル・チームの一員として、グローバル・マネジメントからの日本に対する大いなる期待を感じながら業務を遂行しています」

―― 2010年代前半には、日本拠点を縮小しシンガポールや香港に拠点を移した外資系金融機関が多かったと思いますが、UBSはそうではなく、日本重視、ということですか。

「UBSの日本拠点は、ご指摘の流れには乗らず、独自の道を進んできました。リーマンショック後にグローバルに業務の集中と選択を行った局面があり、日本でも組織の見直しが行われました。

 その後、2013年に米系投資銀行にて約20年の経験を有する西脇順也がUBSの日本の投資銀行本部長に就任し、UBSの日本における投資銀行業務のあり方一つひとつの見直しが行われました。お客様との信頼関係の再構築には時間を要しましたが、最近になってようやくM&Aリーグテーブルにおいて上位にランキングされるまでに至ったことは、大変光栄なことであると思います。より一層自己研鑽し、期待に応えたいとの身が引き締まる思いを強くしています」

日本企業関連M&Aリーグテーブル
日本企業関連M&Aリーグテーブル(2022年)1 日本企業関連M&Aリーグテーブル(2023年YTD)1
順位アドバイザー案件金額
(百万ドル)
案件数 順位アドバイザー案件金額
(百万ドル)
案件数
1野村25,78781 1JPモルガン25,0124
2UBS23,15814 2SMBC日興20,77720
3モルガン・スタンレー22,65038 3野村20,75527
4SMBC日興19,96961 4UBS19,9485
5みずほ17,82566 5みずほ18,42721
6JPモルガン17,27013 6クロスポイント16,1561
7ゴールドマン・サックス15,47212 7バンクオブアメリカ8,8499
8デロイト13,010104 8モルガン・スタンレー7,94112
9バンクオブアメリカ11,0418 9センタービュー・パートナーズ6,3311
10シティ7,9385 10ゴールドマン・サックス3,3254

出典: Dealogic(2023年5月17日に取得)
注: 1 公表案件ベース


大型の売り手企業のFAに起用される事例が増加

―― 日本のUBSのM&Aチームの特徴は。

「M&Aアドバイザリー部専属のバンカーに加え、各セクターチームにおいても過去に何度もM&A案件に関与したことのあるバンカーがいるため、案件ごとにベストなチームを組成しています。その意味では、40人全員でM&Aアドバイザリーサービスを提供しているとも言えますが、小規模な組織であり、何でもできるわけではないことも理解しています。『UBSならではの付加価値』と感じていただける領域にフォーカスしています。

 最近UBSが売り手側の財務アドバイザー(FA)として関与した案件の具体例としましては、2023年3月に公表された、東芝の日本産業パートナーズらへの売却案件(現在進行中。UBSは東芝の取締役会及び特別委員会のFA)があります。また、2022年に公表された案件で既に完了している案件として、日立物流のKKRへの売却案件や三菱商事・ユービーエス・リアルティのKKRへの売却案件、サントリー食品インターナショナルによるSuntory Coffee Australia Ltd.のユーシーシーホールディングスへの売却案件などがあります。様々な売却案件において、売り手側である日本企業のFAとして業務に取り組んできました。

 親子上場の解消や非中核事業の売却等のテーマがある中で、お客様と長期にわたるディスカッションを通じてより深い信頼関係を構築し、貢献度を最大化するというアプローチを採っています。売却側への財務アドバイザリーサービスの提供経験が豊富であることが当社の特徴の一つです。

 我々の特徴であるウェルス・マネジメントの周辺では、事業承継に関する課題を抱えている方々がいます。創業者や上場会社の大株主など、単に高額で売却するだけではなく、信頼できる次の人に適切に引き継ぐことを考えている方は多いです。そのプロセスを丁寧にサポートすることも、我々の重要なミッションです。

 このほかには、アクティビストによる活動の活発化・先鋭化という状況を踏まえ、株主エンゲージメント案件とでも言いましょうか、市場の声も聞きつつ、公平性、独立性、透明性を担保し、各ステークホルダーと調整して、企業価値の拡大や企業理念の実現のためのアドバイスを行う案件に強いことも当社の特徴です」

―― 売り手サイドのFAになることを重視しているのですか。

「お客様にとって、また日本経済にとって、戦略的に意味のある案件をやるという気概を持ち、戦略的な会話をし、UBSとして一番付加価値を出せる所、一番意味のある所にFAとして起用されたいとの思いで提案活動を続けています。グループ企業やノンコア事業を売却する企業側も、売却される側の経営陣にとっても、非常に難しいご判断を求められることになりますので、売り手側のFAに起用されることは重要になってきます。

 もちろん、買い手側FAも重視しています。例えば2023年4月に公表されたキリンホールディングスによるオーストラリアのBlackmores Ltd.の買収案件(現在進行中)や、2022年8月に完了したKKRによるマレリホールディングスへの簡易再生手続きによる資本注入案件、2023年4月に完了したベインキャピタルによるオリンパスの科学事業子会社のエビデントの買収案件などにおいて、買い手側のFAとしてご起用いただきました。

 前述のキリン案件に関しては、長期にわたるIR活動のご支援や株主エンゲージメント案件等を通じた信頼関係の構築もあり、UBSを買い手側のFAとして起用いただけたといういい例です」

―― 買い手側FAとしての実績は。

「買い手側のFAとしての我々の実績としては、前述のほか、MUFGによるHC Consumer Finance Philippines, Incの全持分及びPT Home Credit Indonesiaの85%持分の取得(2022年11月公表、現在進行中)、ユニ・チャームによる中国のJIA PETS社の41.85%持分取得(2023年1月完了)、そして日立製作所によるABB Ltd.のパワーグリッド事業の買収案件などがあります(2018年12月公表。2段階での100%買収は2022年12月に完了)(図表)」

主要案件一覧(2018年以降)
【売却側FAを務めた案件】
  • 東芝の日本産業パートナーズらへの売却(2023年3月公表、案件総額約2.1兆円)
  • 日立物流のKKRへの売却(2022年4月公表、案件総額約1兆円)
  • 三菱商事及びUBS Asset Management AG傘下の三菱商事・ユービーエス・リアルティのKKRへの売却(2022年3月公表、案件総額約2,300億円)
  • 東芝による東芝キャリアの55%持分のCarrier Corporationへの売却(2022年2月公表、案件総額約1,000億円)
  • ジョンマスターオーガニックグループのアスパラントグループへの売却(2022年6月公表)
  • サントリー食品インターナショナルによるSuntory Coffee Australia Ltd.のユーシーシーホールディングスへの売却(2022年2月公表、案件総額約185億円)
  • 日立製作所による日立建機の日本産業パートナーズと伊藤忠商事が共同出資するファンドへの売却(2022年1月公表、案件総額約1,824億円)
  • NTT及び伊藤忠商事による東京センチュリーへの第三者割当増資による出資(2020年2月公表、案件総額約938億円)
【買収側FAを務めた案件】
  • キリンホールディングスによるBlackmores Ltd.の買収(2023年4月公表、案件総額約19億豪ドル)
  • 三井物産らによるMetro Pacific Investments Corporationの買収(2023年4月公表、案件総額約24億ドル)
  • MUFGによるHC Consumer Finance Philippines, Incの全持分及びPT Home Credit Indonesiaの85%持分の取得(2022年11月公表、案件総額約870億円)



■安藤 浩二(あんどう・こうじ)
早稲田大学政治経済学部卒業。監査法人トーマツでの約5年間の会計監査業務を経て、1998年2月にゴールドマン・サックス証券の投資銀行部門に入社。その後、JPモルガン証券、モルガン・スタンレー証券(2010年より三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社)にて、一貫してM&Aアドバイザリー業務及び資金調達業務に従事。2016年5月よりUBS証券。

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