3月23日、⽇本産業パートナーズ(JIP)が管理・運営するファンドと国内・海外の投資家が組成したコンソーシアムが、東芝との間で
公開買付契約を締結した。買付総額は約2兆円で、今後、関係当局の許認可を取り、7月にもTOBの手続きに入る。JIP側の
FAを務めたのは小規模なFAブティックであるクロスポイント・アドバイザーズだ。同社の桂木明夫社長はリーマン・ブラザーズ日本の「最後の社長」としても知られる。東芝の事案や事業内容について聞いた。
古くからの信頼関係を基に、秘密裏に対応―― JIPの東芝の買収案件において、JIP側のFAを務められています。
「投資ファンドである日本産業パートナーズ(JIP)側の東芝買収におけるFAを2022年の初めから、1年以上務めています。昨今、日本においてもM&Aにおいてファンドが色々な役割を担うケースが増え、その存在感が増しています。我々は日本の
PEファンドを設立時からカバーしてきました。JIPに限らず、ロングリーチグループやアドバンテッジ・パートナーズ、ユニゾン・キャピタルなどとは頻繁に意見交換をしています。
普段から諸々の案件の話をするわけですが、日々の話の流れの中でJIPとの間で東芝の話も議論したのが始まりです」
―― 独立系の小規模な会社で、本件のような巨額・複雑な案件を手掛けられたのはなぜでしょうか。
「東芝の件は、案件の性格上、非常に慎重な対応が必要と考えました。初期の段階では非常に秘密裏に動いていたのですが、我々が関与する前から、報道・メディア等で大きな話題となっていました。
そのような状況下ではとりわけ慎重な配慮が必要ですから、古くから信頼関係があるところと一緒に検討することになったということです。ただ、この事案は金額的にも巨額なだけでなく、過去の経緯もあり複雑かつ難しい案件でしたので、『(クロスポイント・アドバイザーズでは)ダメだな』と思われたら、当然、JIPも他の会社に頼んだことでしょう。その点では、当社の実力もそれなりに認めて頂けたのだと思っています」
東芝が持つ潜在力―― この間の経緯をどう見られていますか。東芝は8年ほど前に粉飾決算問題を起こし、その後1年半ほど前に非上場化の話が取り沙汰されるようになりました。
「報道ベースでしか知りませんが、東芝に
スピンオフ(事業分割)の話が出たのはご承知の通りです。事業を三分割あるいは二分割する案は、スピンオフが外国の株主にとってそれほどメリットがないということだったのかどうか、結局スムーズに進まなかった。そこで新たに東芝を非公開化し、経営体制を強固にして再出発すれば東芝の強さを再び引き出せるのではないかと考えました。
弊社の社員も交え、2022年の初めからいろいろな分析を始めました。JIPも当然、色々分析をされたわけです。
また、東芝については、私は前職のリーマン・ブラザーズやモルガン・スタンレーでもカバーしていたので、どういう会社かはある程度は分かっていました。東芝のような重要な会社が、粉飾決算問題によって経営が傾くのは見るに見かねました。東芝のブランドをもう一度蘇らせる、という気持ちがありました。勿論、JIPにおいては投資主体なので、経営をしっかりやればもっといい会社になって投資家としての彼らの投資のリターンも上がるというのが大前提です。
色々と分析した結果、東芝を非上場化することで、より強くより立派な会社にできる可能性は高いと判断し、この話をスタートしました。東芝は素晴らしい会社です。日立製作所もソニーも立派に立ち直りました。東芝もきちんとした経営主体に戻せば、強いブランドがまた必ず戻ってくると思います」
選挙運動に類似―― 東芝の利害関係者は多岐にわたります。どのようにしてまとめ上げられたのでしょうか。
■桂木 明夫 (かつらぎ・あきお)
東京大学法学部卒、77年旧日本興業銀行入行。80年米国ペンシルバニア大学法学部大学院卒業。88年米国バンカース・トラスト銀行本社に入社。M&A、コーポレートファイナンス業務に従事。92年ゴールドマン・サックス東京支店、98年モルガン・スタンレーに入社。投資銀行部東京責任者として、事業法人及び金融法人グループを統括。01年9月リーマン・ブラザーズ入社、06年代表取締役社長。2010年1月クロスポイント・アドバイザーズを設立。