[M&Aスクランブル]

(2023/08/17)

「共同保有者」の制度設計、ウルフパック対策と協働エンゲージメント促進の両立は可能か?

マール企業価値研究グループ
  • A,B,C,EXコース
ポイント
〇公開買付制度・大量保有報告制度等の見直しで注目の「共同保有者」の論点
〇共同保有者の範囲が不明確、機関投資家の協働エンゲージメントの支障になっているとの指摘
〇ウルフパックの現状を放置せずに協働エンゲージメントを促進させる、ベクトルが異なる対応が必要
中小の上場企業には依然として脅威

 昨今、日本においても「ウルフパック(wolf pack)」もしくは「ウルフパック戦術」という言葉が良く聞かれるようになった。ウルフパックとは、複数のファンド等が暗黙裡に協調行動をとることで、対象会社に圧力を加え、増配や自社株買い、経営方針の変更等の要求を実現するM&Aにおける手法をいう。第二次世界大戦中にナチス・ドイツで深海の灰色狼と呼ばれたUボートが、英国への通商船団を待ち伏せした戦術(群狼戦術)に由来するようだ。

 ファンド等が株式の買い占めを進めた場合、大量保有報告規制に応じ、一定の保有比率(日本では5%)を上回った際に開示・報告を行う必要がある。制度上は、対象会社は開示を知り買収が進んでいることを察知し、早期に対応することが可能になるわけだ。ところが、ウルフパックの場合は複数のファンド等が協調し、5%に満たない範囲で対象会社の株式を市場内で買い進め、会社が察知しない状況下で相応の株式を取得する。一種のだまし討ち的な手法と言えなくもない。

 ウルフパックは欧米では、2000年代から用いられていた。例えば、2013年に英国の競売大手サザビーズが、サード・ポイントなどの3つのアクティビスト・ファンドに15%超の株式を買い占められた事例などが存在する。近年はトータル・リターン・スワップ(TSR)などのエクイティ・デリバティブを活用し、大量保有報告の対象外となる金融機関の自己勘定を利用するといった、巧妙なやり方も増えている。

 日本でもここ数年、ウルフパックを用いた企業買収案件が増加している。プラコー、北日本紡績、三ッ星、ナガホリといった比較的小規模な上場会社が対象となっており、実質的な経営権の掌握を目的とするようなケースである。対象会社の増配や自社株買いなどを目的とする欧米の状況とは、やや性質の異なる状況が生じているように考えられる。

 ウルフパックのような手法は、大量保有報告の実効性との観点で望ましくないことは言うまでもない。金融商品取引法は「共同保有者」のルールを定めている(注1)。協働で対象会社に圧力をかける場合は共同保有に該当し、協働する株主の持ち分は共同保有者として合算のうえで大量保有報告が行われ、対象会社の知りうるところとするのが制度趣旨だ。このような意味では、ウルフパックは法の潜脱行為であると指摘されてもやむを得ない面がある。何らかの手立てを講じ、現行法で対処されていない共同保有者の網を広げることが必要との問題意識が出るのも当然だ。

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