[Webインタビュー]

(2021/03/11)

【第126回】【NHCの安東会長が語る】新会社「ポストコロナ・リカバリー」設立と企業再生スキーム

―― 債権買取りや債務の株式化等を通じて地域の中堅中小企業再建を支援

安東 泰志(ニューホライズン キャピタル 代表取締役会長)
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「ポストコロナ・リカバリー」設立の経緯

―― 新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックの影響で過剰債務企業が増加し、地域金融機関の不良債権の増加が危惧されています。こうした中、ニューホライズンキャピタル(NHC)は、過大な債務を抱えた中小中堅企業の抜本的な事業再生を支援するために、2021年2月「ポストコロナ・リカバリー」を設立し、債権の買取りや債務の株式化等を通じて財務面・経営面の改善支援に乗り出しました。新会社設立の経緯についてお聞かせください。

「かねてから申し上げていることですが、新型コロナ禍で業績が悪化した中堅・中⼩企業に対して、国が政府系⾦融機関や官⺠ファンドなどを通して、劣後ローンなどを含む資本性の資⾦を投⼊したとしても、企業の有利⼦負債はむしろ増えるので、根本的な問題の解決にはなりません。それよりもはるかに迅速かつ効果的に、中堅・中⼩企業に資本性の資⾦を⼊れる⽅策があるのです。私は3つのステップを考えています。

 まず、政府が地域にとって重要な企業、あるいは国益にかなう企業については、緊急融資措置の継続、また民間金融機関が地域のコア企業と考える融資先に対して、新型コロナ禍による資⾦繰り難や業績の⼀時的な悪化に相当する分の融資を更に継続することは正しい判断です。したがって、資⾦繰り難や業績の⼀時的な悪化に相当する分の融資を更に継続すること。これを第1ステップとして確認する必要があります。

 ただ、この先新型コロナ禍が収束に向かうとしても、この緊急融資はいわば赤字補填資金とも言うべきものです。経済が正常化したからといって企業の売り上げが2倍になるとか、失われた赤字部分が消えて黒字になるということはありません。過剰債務に陥ったら一遍には取り返せないのです。むしろポストコロナの環境下では収益力が落ちていく可能性が高く、債務消化年数は従来から5~10年と高かったものが、業種によっては20~30年を要するようになります。その状態下では中小企業・中堅企業は、成長投資が一切できないということになりますので、この過剰債務問題を解消しなければなりません。

 おそらく4月以降ワクチン接種が一般にも拡大されていく中でこの段階に移行すると思われますので、どうやって過剰債務を解消するかの対策が必要になります。一番容易なのは政府系なり民間の金融機関が債権放棄、債務免除をすればいいのですが、それほど簡単ではありません。そこで、各⾏が当該融資先の正常収益⼒を確認し、償却前利益の10年分以上の過剰債務になっている場合は、その分の債務免除をするか、あるいは、当該貸付債権を時価で⺠間の投資ファンドに売却するのです。この場合、銀⾏は売却損の分を損⾦算⼊することが可能です。

 投資ファンドなどは買い取った貸付債権を株式に転換する(DES)か、相当額の債務免除をして時間をかけて回収(DPO)すればいいのです。DESはもちろんですが、銀⾏や投資ファンドによる債務免除は、債務免除益の計上を通して資本性資⾦の投⼊と同じ効果があります。また、国や銀⾏が数多くの企業の株主になったり劣後ローンを抱えたりする必要がなくなるという点でも極めて簡便で理にかなった過剰債務解消策と⾔えます。これが第2ステップです。

 そうすると銀行が自ら債権放棄した場合はもちろんですが、投資ファンドにディスカウントで債権を売った場合でも売却損が立ちますので当然自己資本が傷みます。そこで、国は⾃⼰資本が毀損した銀⾏などに対して公的資⾦を投⼊する。これが第3ステップです。

 これについては、ほぼ経営責任を問わずに、かつ返済もそれほど厳しい条件を付けずに政府がお金を入れてくれるという時限立法がありますから、これを活用することができます。2020年6⽉に成立した改正⾦融機能強化法がそれです。コロナ特例措置によれば、公的資⾦申請期限の26年3⽉まで延長と資⾦枠の拡⼤(15兆円)がなされ、優先株に加え劣後債・普通株も可能になり、配当利率も低く抑えられます。何よりも、従来申請に際して課されていた収益⽬標策定・経営責任の明確化が不要になっています」

―― ⾦融機能強化法による公的資⾦の申請は26年3⽉までとなっています。そうすると、銀⾏は、25年3⽉期決算までに抜本的な不良債権処理を⾏って、⾃⼰資本の不⾜を確定させておく必要があります。

「そうです。ということはあまり時間がありませんから、今からそういった先を選別していって投資ファンドとの連携のスキームを活用して処理していくというのが、金融機関としては経営戦略上正しい方法だと思います。これによって要管理先・破綻懸念先以下向けの債権を円滑に処理できますし、潜在的な不良債権の早期処理に関わる手法・ルートの多様化が図れます。評価に専門性を持っている投資ファンド宛に債権を適正な時価で売却することで、税務メリットを享受しつつ、フェアに処理を推進できるのです」

「ポストコロナ・リカバリーファンド」の投資スキーム

―― 設立された「ポストコロナ・リカバリーファンド」の投資スキームを聞かせてください。....

■あんどう・やすし
1981年に三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、1988年より、東京三菱銀行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。90年代に英国ならびに欧州大陸の多数の私的整理・企業再生案件について、参加各行を代表するコーディネーターとして手がける。1994年、英国中央銀行による「ロンドンアプローチ(私的整理ガイドライン、INSOLの前身)ワーキンググループ」に邦銀唯一のメンバーとして招聘される。その後、東京三菱銀行企画部で企画部門の次長を歴任後、2002年フェニックス・キャピタル(現・ニューホライズンキャピタル)を創業し、代表取締役CEOに就任。国内機関投資家の出資による8本(総額約2600億円)の投資ファンドを組成、市田・近商ストア・東急建設・不動建設・世紀東急工業・三菱自動車工業・ゴールドパック・ティアック・ソキア、日立ハウステック、たち吉など、流通・建設・製造業に亘る数多くの企業の再生と成長を手掛ける。東京大学経済学部卒業・シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。 事業再生実務家協会常議員、日本取締役協会監事、UWC ISAK監事。


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