はじめに司会:世界的な経済危機に見舞われた波乱の二〇〇九年は、世界恐慌の破局を回避しようと、各国が連携し、政府の金融・経済への関与の度合いが高まった年でした。M&Aの関連でいえば、米国で、自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)が破綻し、国有化されました。日本でも、困窮した企業を救済しようと、大企業に国が出資する制度が整備され、半導体大手のエルピーダメモリに出資などが行われたほか、地域の中堅企業を主たる対象とする企業再生支援機構がスタートします。経営再建中の日本航空の再建処理も大詰めを迎え、政府の関与の度合いが高まっています。企業のライフサイクルの中で、困窮した企業の発生は避けられません。それをどう再生、整理していったらいいのか。経済危機だからといって、安易に民間企業に国家資金が投入され、「国家によるM&A」が拡大していくと、株式会社制度の機能を損ね、ひいては資本主義経済そのものを否定しかねません。民と民の取引であるM&Aも影響を受けます。本日は、第一部で、経済危機のもと日本で新たに始まった公的資金注入制度について、倒産法制の視点から検証するとともに、第二部で、困窮した企業の再建と市場からの退出のためのインフラである倒産法制の意義、現状、課題についてお話をいただきます。高木新二郎弁護士は、産業再生委員長を務められるなど、企業の早期再生の実務や破綻処理の分野の第一人者です。山本和彦先生は倒産法制のご専門で、政府の司法制度改革推進本部のお仕事や途上国の法制度整備支援の活動などもされています。(なお、この対談は前原誠司国土交通大臣直属の「JAL再生タスクフォース」構想が急浮上する前の九月一七日に行われたものです。高木弁護士の日航問題に関連する発言は、全く私的見解です)〈第一部〉 公的資金注入制度の検証第一 企業再生支援機構司会:停滞する地域経済を活性化するため、事業再生支援を目的に企業再生支援機構が一〇月にスタートします。出資機能と債権買い取り機能をもっています。高木先生は、生みの親ですが、当初の親の思いとは、違うものになってしまったのでは……。高木:元々は、地方の第三セクターと地域の中堅企業を対象に地域力再生機構をつくるのが目的でした。そのときは、私も全力投球で準備しました。しかし、昨年、法案が成立せず、今年の通常国会で、対抗して民主党が中小企業再生支援機構法案を出してきた。与野党協議の結果、三セクが除外され、法律や機構の名前も変わって、成立したのですが、形も中身も変わってしまったので、私はこの問題から手を引きました。同機構は、産業再生機構をモデルにしたものです。法律その...