国内外のM&A市場は好調だが、
表明保証保険は、万が一の損失に備えるだけではなく、交渉をスムーズに行うためのツールとしても活用でき、注目が高まっている。国内でも、
PEファンドがポートフォリオカンパニーを
エグジットする際に、表明保証保険の活用を前提としてオークションが行われるなどの状況が、ごく当たり前に見られるようになった。本稿では、表明保証保険の基本情報から現在のマーケット状況、さらには将来的な展望について詳述する。
I 表明保証保険とは何か(基本情報・背景) 1. 基本情報 M&Aの際の株式譲渡契約書(以下、「SPA」)に、当該取引に関連する各種の事実についてセラー側に当該事実が真実かつ正確であることを表明させ、当該事実が異なる場合(表明保証違反)には、バイヤー側は損害賠償などの請求を可能とする補償条項が規定されるが、これらは「表明と保証」といわれている。
表明保証保険では、セラー側の「表明と保証」について、
クロージング後に何らかの表明保証違反が判明した場合等に、セラーまたはバイヤーに対して保険金が支払われる仕組みが提供される。通常は、SPAに記載される表明保証条項全般が保険の対象とされることを目指すが、引受審査の結果「表明と保証」の一部のみが対象となるケースもある。保険の対象になるのは、SPA締結・クロージング時点の両方またはいずれかでの未知のリスクのみだが、この保険は、バイヤー側とセラー側のいずれも購入できる。前者・後者の補償面での決定的な差は、バイヤー側が購入する場合には、セラー側の詐欺的行為・隠蔽に起因するバイヤー側の経済損失もカバーできることだ。セラー側で購入する表明保証保険は、当然ながらセラー側の詐欺的行為・隠蔽をカバーしないためである。そのような事情から、発行される保険証券の95%以上は、バイヤー側が手配している(マーシュの2023年グローバル実績では、99.3%がバイヤー側の手配)。
保険期間は、SPAに記載の補償期間を延長させて、最大7年間まで任意に設定できる。例えば、
■筆者プロフィール■

宍倉 浩司(ししくら・ひろし)
大学卒業後、日系の保険会社にて、保険・リスクマネジメントの分野でキャリアを積む。その後、外資系保険代理店において、外資系グローバル企業を中心としたリスクマネジメントに従事。外資系グローバル企業に加え、不動産業界やプライベートエクイティなどの顧客を担当。2013年、JLTリスク・サービス・ジャパン株式会社(現マーシュ ジャパン株式会社)に入社、現職に至る。マーシュ ジャパンでは、表明保証保険やPEファンドのポートフォリオカンパニーのクロージング後の保険プログラムなど、主にM&A案件に付随した保険を手配する部門を統括。