本連載では、日本企業が直面する経営課題を整理し、そこから見える2025年のM&Aのトレンドや成功のポイントを業界ごとに探ってきた。最終回となる本稿では、
プライベートエクイティ(PE)ファンドによるM&Aの展望を取り上げる。現在、PEファンドの活動は、さまざまな業界のM&Aを促進する要因の1つとなっている。日本におけるその活動を概観するとともに、事業会社とは異なる投資家の視点から、日本企業のM&Aに対する示唆を提示したい。
1. 国内のPE市場の拡大 まず、欧米におけるPEファンドによるM&Aは、取引件数、取引金額ともに年々増加傾向にある。足下では地政学リスク、金利上昇などの要因で成長が鈍化していたが、AUM(運用資産残高)は着実に拡大しており、
ドライパウダー(投資可能な資金)も積み上がっている。2025年も昨年以上に投資活動が活発化すると見込まれる。
日本のPE市場においても、各指標は欧米と同様のトレンドを示している。2023年や2024年はむしろ欧米より安定した水準を維持している。またキオクシアや東芝のような2兆円近い大型案件を除くと近年はほぼ右肩上がりで取引金額が拡大、すなわち市場が拡大している(図表1)。またAUMに対するドライパウダーの比率は欧米より低く、調達した資金が順調に消化されるだけの投資案件が存在していると考えられる。今後もまだ豊富な投資案件の存在が期待できる(図表2)。
■ 筆者履歴

辻垣 元(つじがき・はじめ)
パートナー&ディレクター
BCGのトランザクション&インテグレーションチームのコアメンバー。プリンシパル・インベスター&プライベート・エクイティグループにおけるエキスパート。東京工業大学理学部卒業。同大学大学院情報理工学研究科修了。BCGに入社。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社を経て、BCGに再入社。