積極化するスタートアップ投資
ベインキャピタル・プライベート・エクイティ・ジャパン(以下ベインキャピタル)のスタートアップ投資が積極化している。
直近では、2021年11月に医療機関向けのITサービスを展開するLinc’well(以下、「リンクウェル」)のシリーズC(総額約80億円)調達をリードした。シリーズC調達にはベインキャピタルのほか、Pavilion Capitalや既存株主のニッセイ・キャピタル、インキュベイトファンド、DCM Ventures等が参加している。このほか、2020年8月には中小事業者向けに決済やECサイトプラットフォームを展開する
ヘイのシリーズE調達をリード。この調達では、機関投資家の香港のAnatoleや米国Goldman Sachs(米)、同じく米国の決済会社PayPal等が参加している。調達額は非公開となっているが、総額は約100億円、ベインキャピタルの投資額は70億円と見られる。さらに2021年4月には、スマートフォンアプリ開発を行っている東証マザーズ上場の
イグニスの経営陣が、ベインキャピタルとの共同出資会社(ベインキャピタル57%)を通じて全株式を取得、
MBOを行っている。
スタートアップの投資ラウンドは、一般的に5つに分けられる。
①起業前の段階である「シード」、起業して間もない時期の「アーリー」、②事業を開始した時期にあたるのが「シリーズA」と呼ばれ、有望とみられるとベンチャーキャピタル(VC)などからエクイティ投資が行われ、通常1000万円から数千万円程度の資金調達を行う。③事業が軌道にのる段階が「シリーズB」で、調達額は億円単位になる。④その次の段階がレイトステージでIPOが視野に入ってくる。⑤さらに、IPOに至るまでに「シリーズC」、「シリーズD」、「シリーズE」とさらなる調達を行うこともあり、米国ユニコーン企業(株式時価総額が10億ドル以上の非公開企業)では、シリーズGくらいまで資金を調達するケースも見られる。
カーライル・グループも250億円超を投資
政府も2025年度までに50社のユニコーンを創出していく目標を掲げ、さまざまな取組を行っており、最近では、2021年に日本特化型としては過去最大の2580億円のファンドを設定した米大手投資ファンドのカーライル・グループが、事業拡大が見込まれる日本の有力スタートアップに対して2024年ごろまでに10%(250億円超)を投資する方針を表明。第1号案件として、2021年9月にバイオ素材開発を手掛けるスパイバー(Spiber)に100億円を出資している。実は、カーライル・ジャパンにはかつて「グロース・キャピタル・チーム」があり、2007年に仲谷マイクロデバイスに15億円の出資を行った実績がある。しかしその後、日本のスタートアップ市場が振るわなかったこともありグロース・キャピタル・チームは消滅したという経緯がある*。
*当時カーライル・ジャパンのマネージングディレクターで、日本のグロース・キャピタル・チーム責任者であった朝倉陽保氏は、その後、産業革新機構の創業メンバーとして専務取締役/COOを務めた後、丸の内キャピタルの代表取締役に就任。また、グロース・キャピタル・チームのディレクターであった吉崎浩一郎氏はグロース・イニシアティブ設立を経て、現在グロースポイント・エクイティLLPの代表パートナーに就任している。
これまで大手
PEファンドの主力ターゲットは上場企業に対する
マジョリティ出資であったが、第4次ベンチャーブームといわれる日本で、ベインキャピタルやカーライル・グループのほか、今後は有力ベンチャー企業への
マイノリティ投資を視野に入れるPEファンドが増えてくることが予想される。
そこで、大手PEファンドでスタートアップ投資に積極的に取り組んでいるベインキャピタルのTMTセクター投資責任者でスタートアップ投資・グロースエクイティ投資も手掛ける西直史マネージングディレクターに投資戦略を聞いた。