[Webマール]

(2024/11/28)

2023年度 JPEAアウォード 受賞案件インタビュー「エントリー賞」

投資先企業:レナタス、PEファンド:J-STAR

中西 広幸(レナタス 取締役 執行役員 営業戦略本部長、ジャパンウェイスト 代表取締役社長)
柳原 明人(レナタス 事業戦略本部 事業企画部長)
櫻井 秀秋(J-STAR 取締役 パートナー、レナタス 代表取締役社長 執行役員)
中嶋 将良(J-STAR プリンシパル、レナタス 監査役)
左から中嶋将良氏、櫻井秀秋氏、柳原明人氏、中西広幸氏

左から中嶋将良氏、櫻井秀秋氏、柳原明人氏、中西広幸氏

日本プライベート・エクイティ協会(JPEA)は9月3日、2023年度の「JPEAアウォード」対象案件を発表した。
JPEAアウォードは、各年度にJPEAの正会員が関与した案件(新規投資、一部/全部売却、対象期間中にプライベート・エクイティが関与したことによる明確な価値創造)のうち、「プライベート・エクイティの社会的意義及び機能」、「プライベート・エクイティによる産業、経済、社会への貢献」を果たした案件を、外部有識者によって構成される選考委員会にて厳選し、決定している。
10回目となる今回のアウォードでは「エントリー賞」「エグジット賞」がそれぞれ1件、「ESG賞」が2件選出された。
各賞の投資先企業とPEファンドの双方に、投資の経緯や投資期間中の取り組みを聞いた。
「エントリー賞」案件概要
対象会社株式会社レナタス
スポンサーJ-STAR No.5 Fund Series、J-STAR Environment Funds等
売り手J-STAR No.3 Fund Series、J-STAR No.4 Fund Series等
案件発表
(年月)
2023年11月
事業概要環境関連事業、環境整備・ビルメンテナンス事業、コンサルティング事業
業績推移売上高569億円(2023/12月期)※合併前のジャパンウェイスト社も含めた単純合算
主な
価値創造
(予定含む)
本邦初のスキーム(コンティニュエーション・ファンド)を用いた投資先企業の集約による有力企業連合体の樹立
ロールアップ戦略支援を通じた業界再編のさらなる促進
企業の壁を越えた連携(営業面、技術面)体制構築によるサービスの高度化・効率化
IPOを目指すことによる社内体制の高度化
CEOをはじめとするキーマネジメントの招聘、採用
選考理由
①サーキュラー・エコノミーへの取組み
 レナタスは、廃棄物処理事業及びリサイクル事業を営む各地の有力企業(シンシア、新日本開発、ハリタ金属、サンワグループ、ジャパンウェイスト)5社からなるグループで、関東、中部、近畿、北陸、九州の主要工業地帯をカバー、国内産業廃棄物処理業では大栄環境に次いで2位の売り上げ規模を有する。

 本年8月に「第5次循環型社会形成推進基本計画」が閣議決定されたが、脱炭素化の推進や資源確保などの観点からも「リニア・エコノミー」から「サーキュラー・エコノミー」への移行の推進は「社会課題の解決」の大きなテーマで、業界再編を進めそれを担う全国規模のプレーヤーを育成することに大きな意義がある。また、以前からこの業界はガバナンスなど様々な課題を抱えているので、PEファンドによるその改善の優良事例になることが期待される。

②GP主導のコンティニュエーション・ファンドの組成
 レナタスへのエクイティファイナンスの為にJ-STARは新たに200億円規模の環境ファンドを組成し、5号ファンドと共同で投資を実行。また、新たに調達したLBOと併せ環境関連の既存投資先4社を買収。3号、4号の投資家にエグジット機会を提供すると同時に希望する投資家には環境ファンドへの投資機会を提供。

 欧米で増加しているコンティニュエーション・ファンドの中にはやや懐疑的な見方をされる案件も多々あるが、本案件に関しては、前述の目的に照らして意義のあるものであり、また日本での本格的なコンティニュエーション・ファンドの第1号案件として、複雑なステークホルダーの利害調整を経て実現したことに意義・革新性がある。
国内初のスキームで複数ファンドの投資先企業を集約

―― レナタスはJ-STARによって2024年8月に設立された後、2024年11月にJ-STARの既存ファンドで投資していたハリタ金属(現HARITA)、新日本開発ホールディングス、シンシアホールディングス、サンワグループの全株式を取得し、レナタスを持株会社とする企業グループを結成しました。まずはグループ設立の経緯を教えて下さい。

中嶋氏 中嶋 「J-STARでは投資テーマの1つにロールアップを用いた業界再編を掲げています。創業からのプライマリー投資企業数60社に対して、ロールアップを含めた総投資企業数は140社を超えます。つまり1社に対して1社以上のロールアップを実施していることになります。

 ただ、レナタスの事業領域である産業廃棄物処理業やリサイクル業の投資先には地域の有力企業が多く、事業規模が比較的大きいため、時間軸や投資額を踏まえると1つのファンドだけでロールアップをやりきることは困難でした。

 また、これら業界の特徴として、事業の地域性がとても強いことが挙げられます。

 そのため、4号ファンドまでの投資先だけでは事業エリアが離れていてシナジーが見込めず、当初は再編に二の足を踏んでいました。そうした中、5号ファンドで中部・北陸・関西圏に廃棄物の収集・運搬・処理のネットワークを持つサンワグループへの投資機会を得たことで物流面や営業面のシナジーが期待できるようになったため、企業グループ結成に向けた検討を開始しました」

―― レナタス設立にあたっては、本邦初となる「GP主導型コンティニュエーション・ファンド」というスキームが使われています。このスキームがどのようなものかや、その仕組みを教えて下さい。

中嶋 「レナタスグループの構成企業は3号~5号ファンドにまたがっていましたが、各ファンドのLPは一致していません。こうした状況で単純な企業統合を選んでしまうと、投資家間で利益相反が生じる可能性がありました。この懸念を払拭するために、コンティニュエーション・ファンドという仕組みを使って新たに『環境ファンド』を組成し、このファンドから持株会社のレナタスにエクイティ出資をする形をとりました。

 詳細を説明すると、3号と4号ファンドで投資していたハリタ金属、新日本開発、シンシアの投資持分をレナタスに移すことでLPにエグジット機会を提供するとともに、継続投資を希望するLPには環境ファンドにもLPとして参加いただいています。なお、設立から日が浅い5号ファンドについては、投資先であるサンワグループの持分をレナタスに移すとともに、その対価である売買代金債権をレナタスに現物出資しました。従って、レナタスの資本の多くは環境ファンドと5号ファンドからの出資で構成されることになりました。

 また、環境ファンドにはレナタスの成長に向けた追加投資枠を確保する狙いもあり、新規LPからの出資も受け入れています。その際は入札形式で企業価値を評価してもらうことで、既存LPとの利益相反を緩和する仕組みにしています」

2017年頃から業界でPEファンドに対する認知が向上

櫻井氏―― J-STARはいつからこれらの業界に着目していたのですか。

櫻井 「2006年の当社創業直後に、2番目の投資案件として廃プラスチックのリサイクル企業に投資しています。

 この投資で業界にネットワークを作ることができたので、その後も関心を持っていたのですが、先述のように各地域の有力企業が多く、かつ参入障壁が高いこともあり、なかなか投資機会には恵まれませんでした。状況が変わったのは3号ファンドでハリタ金属に投資した2017年頃からです。業界でPEファンドに対する認知が広まったこともあってか、以降は継続的な投資ができるようになっていきました」

―― 投資にあたってはESGに対するコミットメントも意識したのですか。

櫻井 「最初の投資時点で、次世代に必ず引き継がなければいけない、社会に不可欠な産業であるという認識はありました。

 一方で、例えば廃棄物処理では焼却工程をともなうので、投資に際して環境負荷の観点から社内で議論を重ねました。その結果、CO2は発生させるものの、有害物質の除去によって公害の拡大を防ぎ、住環境や人々の健康を守る役割もあることから、『他で代替できない社会的な価値がある』との結論に至った上で投資を実行しています。

 ESGは社会にとって重要な課題であり、取り組む意義は大きいと考えています」

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