[Webマール]

(2024/05/10)

アクティビスト対応には長期投資家との対話充実を

前田 昌孝(マーケットエッセンシャル主筆、元日経新聞編集委員)
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今年も6月の株主総会が迫り、アクティビストの動向が再び話題になり始めた。上場企業に不採算の事業部門の売却を迫るケースもあり、企業側は対応に苦慮している。こうしたなか企業が対抗策を打ち出すにあたって頼りにされている投資信託もある。一部の企業から重宝がられているのが、国内株式のアクティブ運用に取り組んでいる投資信託などの機関投資家だ。アクティビストに対応している企業は、短期的な要求に振り回されない知恵が欲しいのだ。

「墓場」の時代を乗り越えて

 日本は2010年ごろまで「アクティビストの墓場」と言われることもあった。大幅増配や自社株買いを要求しても、国内の他の機関投資家が企業の味方になってしまうから、株主総会で否決されることが多く、投資成果が上がらないままに退散せざるをえないケースが相次いだからだ。村上世彰氏が率いた村上ファンドのほか、米国のスティール・パートナーズ、英国のザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドなどがうごめいたが、多くは不本意ながらも、矛を収めてきた。

 ここにきてアクティビストらが東京市場で活発に動いているのは、成果を上げやすい環境が整ってきたからだ。従来、株主提案議案に賛成することなどまずなかった国内の機関投資家が、曲がりなりにも議決権行使基準を策定し、企業価値の向上につながると思われる提案には賛成票を投じることが増えてきた。

 2023年3月末に東京証券取引所が上場企業に株価純資産倍率(PBR)の向上を要請したことも、アクティビストらには追い風になった。PBRはさまざまな要因で決まるのに、東証の要請は「低PBRは企業の責任だ」と言い放ったのに等しい効果を持っている。上場失格、経営者失格などの言葉を浴びせられないように、企業はアクティビストらの声に耳を傾けざるをえなくなった。

増える巧みな提案



■ 筆者履歴

前田 昌孝

前田 昌孝(まえだ・まさたか)
1957年生まれ。79年東京大学教養学部教養学科卒、日本経済新聞社入社。産業部、神戸支社を経て84年に証券部に配属。97年から証券市場を担当する編集委員。この間、米国ワシントン支局記者(91~94年)、日本経済研究センター主任研究員(2010~13年)なども務めた。日経編集委員時代には日経電子版のコラム「マーケット反射鏡」を毎週執筆したほか、日経ヴェリタスにも定期コラムを掲載。 22年1月退職後、合同会社マーケットエッセンシャルを設立し、週刊のニュースレター「今週のマーケットエッセンシャル」や月刊の電子書籍「月刊マーケットエッセンシャル」を発行している。ほかに、『企業会計』(中央経済社)や『月刊資本市場』(資本市場研究会)に定期寄稿。

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