[M&A戦略と会計・税務・財務]

2025年9月号 371号

(2025/08/12)

第216回 M&Aにおける未積立退職給付債務の企業価値への反映

Chris Haralambous(PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター)
櫻井 俊秀(同 マネージャー)
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1.M&Aにおける退職給付制度

 M&Aにおける人事制度(給与・等級・報酬など)は、特にM&Aでイシューとなる内容(例:スタンドアロンコストなど)や、M&A後の取扱い(例:PMIなど)を中心に分析がなされる。

 退職給付制度は、上記に加え、M&A時の価格(企業価値)に与える影響についても分析が必要となる。退職給付制度は、給与などと異なり勤務中に支払われずに社内/社外で積み立てられ、退職時に支払われる。制度によっては、従業員に積み立てられた未積立退職給付債務がB/S上で認識され、企業価値に影響を与える。

 本稿では、M&Aにおいて、日本企業を対象会社とする場合の未積立退職給付債務の企業価値への反映の取扱いを中心に論じる。なお、役員退職慰労金については本稿では論じない。

2.M&Aで考慮するべき未積立退職給付債務

 M&Aにおける未積立退職給付債務の評価方法について、規制やガイドラインは存在せず、商取引上の交渉によって決定される。日本においては、会計上の負債(資産)を基準とすることが一般的であり、本稿でもその前提で論じる。海外では、会計上の負債ではなく、将来、保険会社にバイアウトするために必要となる追加コストを加味したバイアウト基準で評価する場合など、多くのケースがあるが、本稿では論じない。



■筆者プロフィール■

Chris Haralambous(クリス・ハラランボス)
PwCアドバイザリー合同会社 ディレクター 
2007年にPwC英国に入社、2018年にPwC コンサルティング合同会社への移籍を経て、2023年より現職。HRアドバイザリーチームにて、日本および多国籍企業のクライアント向けに、M&Aプロジェクトにおける従業員および福利厚生関連全般の管理を支援。M&Aプロジェクトでバイサイド/セルサイドのクライアントに、HRデューデリジェンスやリテンションプランニング、福利厚生・年金制度設計、従業員向けのコミュニケーションやインセンティブのプランニングなど、M&Aサイクル全体にわたる多様なプロジェクトを主導した経験を有する。英国年金数理人、英国アクチュアリー会正会員、経済学修士。

櫻井 俊秀(さくらい・としひで)
PwCアドバイザリー合同会社 マネージャー 
国内生命保険会社を経て現職。退職給付制度の専門家としての退職給付制度設計・設立、退職給付債務計算、年金ALM分析などの実務経験を有する。HRアドバイザリーチームにて、バイサイド/セルサイドのクライアントに向けた、退職給付制度を含むHRデューデリジェンスやPMI/カーブアウト支援に従事。年金数理人、日本アクチュアリー会正会員。

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