1 日本企業間のM&Aでも中国の企業結合規制を遵守しなければならない M&A取引を行う上で避けては通れないのが独禁法届出、すなわち独占禁止法に基づく企業結合届出に関する検討だ。ここでいう独占禁止法は、日本の独占禁止法に限られない。例えば、
日本企業が日本企業を買収するようなケースでも、企業結合規制が存在する外国の届出基準に該当する場合は、その外国の競争当局に対して企業結合届出を行わなければならない。
企業結合届出が必要となると、当局から承認(クリアランス)を得てからでなければM&A取引を実行できない。クリアランス前の取引実行は「
ガン・ジャンピング」(いわゆる前倒し)と呼ばれる違法行為であり、制裁の対象となり得る。そのため、M&A取引を進めるに当たっては、案件の初期段階でどの国で企業結合届出が必要となるかをチェックし、必要に応じて現地当局への届出を行うための期間を取引のスケジュールに組み込むというのは、もはやプラクティスとして常識となっている。
中国では2008年に独占禁止法が施行され、企業結合規制が導入された。その当時は中国にそもそも企業結合規制が存在することすら知らないままにディールをクローズしてしまった例や、どうせバレないと高を括って届出を「ネグる」といった例も見られたが、それも今は昔。2014年以降、届出義務の不履行を理由に日本企業を含む外国企業が中国の独禁当局から制裁を課される例が相次いだこともあり、
中国は諸外国の中でも特に慎重な対応が必要な国であると認識されるに至っている。ここ数年は、中国当局が届出義務の不履行を理由として事業者を処罰する事例が減少しているが、それは事業者側にて届出懈怠が生じないよう細心の注意を払うようになったことも理由の1つであるように思われる。
2 中国独禁法届出実務の最新の状況 (1) 2024年1月の届出基準の緩和
■筆者プロフィール■

唐沢 晃平(からさわ・こうへい)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業 パートナー 弁護士
2007年早稲田大学法学部卒業。2010年慶應義塾大学法科大学院修了。2011年弁護士登録。2015年9月~2016年7月上海オフィス代表、2016年8月~2018年6月北京オフィス代表。2019年メルボルン大学ロースクール卒業(LL.M.)。
中国における投資・撤退・再編・現地法人オペレーションに関する、日系企業向けのアドバイスを中心に、中国関連法務において幅広い経験を有している。上海オフィス及び北京オフィスにおける駐在歴のほか、仏国の大手法律事務所への出向、豪州留学の経験を有し、国内外のコーポレート案件、M&A、紛争解決、その他各種のクロスボーダー案件を幅広く取り扱っている。