[【コーポレートガバナンス】よくわかるコーポレートガバナンス改革~日本企業の中長期的な成長に向けて~(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社)]

(2019/10/02)

【第5回】 経営インフラとしての内部監査

関 彩乃(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアコンサルタント)
  • 無料会員
  • A,B,C,EXコース

なぜ、いま内部監査の強化が重要なのか


 前回までの連載では、いわゆる「攻めのガバナンス」に焦点をあて、経営者のマインド変革を促し、果敢な経営判断を後押しする取締役会の役割や、最適な経営資源配分のための事業ポートフォリオマネジメントの在り方について触れてきました。ここからは、「守りのガバナンス」に焦点をあて、企業価値の持続的な向上を下支えする、リスクマネジメントの在り方について触れていきたいと思います。

 事業のグローバル化や多様化が進み、組織の規模がグローバルに成長する中、企業グループとしてのリスクマネジメント体制を整備することの重要性は増しています。近年では、M&Aを通じて、海外にグループ会社を持つ企業も増えており、異なる言語や文化、商慣習を前提としたリスクマネジメントは、難易度が高まっています。従来、日本企業の海外子会社の管理は、現地に日本人駐在員を送り込む形で行う、いわゆる“人によるガバナンス”が主でしたが、事業環境の変化のスピードに対応していく中で、現地に権限委譲を進めている企業も多いでしょう。しかし、本社によるリスク管理の仕組みが確立できていないにも関わらず、現地への権限委譲を進めた結果、単なる“放任”となり、海外子会社がリスク管理上の死角になってしまっているケースも少なくありません。実際に、そこからグループ全体の経営を揺るがしかねない不祥事が発生するというケースも多く報告されています。このような状況から、いま日本企業にとって、グループ全体の経営状況を可視化する、グループで一元化されたリスクマネジメント体制を構築することは、喫緊の課題です。

 さらに、資本市場の観点からも日本企業のリスクマネジメントには変化が求められています。

 近年、外国人投資家や、いわゆる“物言う株主”の増加により、経営の透明性向上のプレッシャーに晒される日本企業は増えています。実際に、日本型ガバナンス(監査役会モデル)における社内取締役中心に構成される取締役会、社長など執行サイドの息がかかった監査役などは、外国人投資家から、経営者をけん制する仕組みとして機能せず、経営の透明性が確保されていない、と批判されることも少なくありません。上場している日本本社の経営トップは、外部の投資家に対し、海外子会社を含むグループ全体の状況について、説明責任を果たす必要があります。当たり前ですが、問題が起こってしまった際に、”本社からの管理の死角になっていた、ブラックボックス化されていた“という言い訳は通用しないのです。グローバルスタンダードに適合したガバナンス体制を構築していく上では、日本本社の経営トップに限らず、子会社の経営トップも含めた、グループ全体のマネジメント不正を防ぐ実効的なリスクマネジメント体制を築くことが求められています。

 そして、上記の課題解決に向け強化されるべき経営インフラが、“内部監査”です。

 内部監査というと、法令順守対応というイメージが強いかもしれませんが、内部監査人協会(IIA: 米国に本部を置く内部監査に関する世界的な指導的役割を負う)によると、内部監査のミッションは、経営目標の効果的な達成に役立つことを目的に、独立した立場で、経営諸活動の遂行状況を評価し、支援することにあります。さらには、組織体の大規模化及びグローバル化に伴い、組織体全体での分権化が進んでいることを前提に、企業の経営目標達成に向け分権管理が効果的に行われるためには、内部監査による第三者としての客観的な立場からの評価が必要不可欠である、としています。グループで一元化されたリスクマネジメント体制を整備していく上で、内部監査がなぜ重要か、お分かりいただけたでしょうか。


グローバルカンパニーとの差は開くばかり・・・


 しかしながら、日本企業において、内部監査の重要性に対する理解は決して高くないのが現状です。具体的には、内部監査が単なる上場規則対応あるいは法令遵守のための仕組みとして捉えられ、経営目標の達成の上で必要不可欠な経営インフラであると認識されていないことが多いようです。このようなケースでは、内部監査が形式主義、すなわち書類を整備すること自体がその目的となってしまっています。本来、企業の経営目標達成を支援すべき立場であるにも関わらず、事業部門からは、“規則違反警察”として煙たがられてしまうこともあるようです。結果として、社内における内部監査の位置づけが低い、という声も聞こえてきます。

 そして、内部監査の課題は、そのリソース配置からも伺うことができます。

 有価証券報告書のコーポレートガバナンスの状況を覗くと、売上規模が数千億円以上にのぼる大企業であるにも関わらず、内部監査部門には数名程度のスタッフしか配置されていないケースも多いようです。企業のグローバル化の度合いや事業の複雑性に鑑みると、このようなリソース配置では、内部監査機能が軽視されていると指摘されても仕方のない状況です。なかには、内部監査部門長は、“あがりのポジション”として捉えられ、これまで管理部門の経験が全くない営業部門出身の方が、内部監査に関する専門知識がないまま、内部監査部門のトップにつくという例もあるほどです。このような状態では、専門性をもったプロフェッショナル集団として、その任務を全うすることが難しい状況であることは、想像に難くありません。

 次に、内部監査部門の独立性に目を向けたいと思います。前述のIIAによる内部監査の目的、では「内部監査部門は、第三者として、事業部…

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

■筆者略歴

関 彩乃(せき・あやの)
コンサルティング会社を経て、現職。グローバル企業によるクロスボーダーM&Aに関わるPMI、日本企業による海外企業買収に関わるPMIなどを主に経験。その他、グローバル企業によるERP導入、子会社における会計方針統一、内部統制評価などを経験。

続きをご覧いただくにはログインして下さい

この記事は、無料会員も含め、全コースでお読みいただけます。

マールオンライン会員の方はログインして下さい。ご登録がまだの方は会員登録して下さい。

バックナンバー

おすすめ記事

スキルアップ講座 M&A用語 マールオンライン コンテンツ一覧 MARR Online 活用ガイド

アクセスランキング