[【PMI】 攻めのPMI -企業価値最大化の契機としてのM&A(マッキンゼー・アンド・カンパニー)]

(2019/06/06)

【第4回】 市場へのメッセージと設定すべきシナジーの目標とは?

野崎 大輔(マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー)
加藤 千尋(マッキンゼー・アンド・カンパニー アソシエイト・パートナー)
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  本連載では、「攻めのPMI~企業価値最大化の契機としてのM&A~」と題して、ディールから実現する価値創造の目標を高く設定し、PMIによって確実に果実を刈り取るための知見を紹介している。第4回では、M&Aのシナジーに関して、株式市場にどのようなメッセージを発信するのがよいか、そしてシナジーの目標金額をどのように社内で設定するのがよいか、という課題に着目する。これらのシナジー効果の実現に関連するテーマは、PMI活動を価値創造に繋げることと密接に関わってくる。

「シナジーの実現」と合わせて重要な「市場へのコミュニケーション」と「シナジーの目標設定」という観点からの6つのメッセージ

  今回は、これまでの主な着眼点であったシナジーの実現というテーマに加え、「市場へのコミュニケーション」と「シナジーの目標設定」という要素について解説する。

  「市場へのコミュニケーション」が重要である背景には、「企業価値向上の3本の矢」によってIRの重要性は増しているという事実がある(図1)。生命保険協会が発表した調査によれば、多くの投資家は、企業が手元資金を株主還元ではなく成長投資に回すことを期待しており、企業の投資については、投下資本利益率(ROI)を重視している。つまり、成長投資の観点においては投資家に歓迎されるが、ROIを重視する投資家にとってより重要な評価項目は、支払うプレミアムを超えるだけのシナジーによる価値創造が達成されるかどうかということが重要なポイントとなる。

  一方で、社内の「シナジーの目標設定」も、ディールによるシナジーの実現については大きな影響を及ぼす。一般的に、シナジーの目標設定は、ディールの段階ごとにアプローチも活用方法も異なる。したがって、社内のシナジーの目標設定の際には、特に社内でどのように解釈されるかを慎重に検討しなければならない。さらに、シナジーの目標設定には、設定のタイミングにおいて把握している最良の事実・データによる推計に基づいて行われる必要があるので、正しく行うことは容易ではない。

[図 1]


  本稿では、「攻めのPMI」を実行して価値創造を最大化するために、「市場へのコミュニケーション」と「シナジーの目標設定」および「シナジー実現」の観点から、6つのメッセージを提示したい。

  1. 【ディール発表時】 シナジーの予想金額の対外発表は、株式市場に好意的に受け取られることが多く、積極的に行うことが望ましい

  2.【目標設定時】 市場に発表するシナジーに比して、社内で掲げるシナジーの目標金額はディールの種類に応じて高く設定すべき

  3.【目標設定時】 シナジーの目標金額の推計は、簡便なベンチマークは適用できず、個別のディールの戦略的目的や統合のアプローチから検討する必要がある。一方で、過去のディールのシナジーに関する情報は有用なインプットとなり得る

  4.【目標設定時】 統合にかかる一時的な費用については、事前の試算より大幅に上振れする傾向があるので、推計の際には注意が必要である

  5.【シナジーの実現期】 シナジーの実現はディール完了後18ヶ月を目途に、およそ完了を目指すべきである。それを過ぎると、シナジー目標への到達は困難である

  6.【シナジーの実現期】 株式市場には、M&Aディールから統合の期間を通した一貫したメッセージを通じたコミュニケーションが重要である。シナジーの経過も継続的に市場に発信していくべきである



1.【ディール発表時】 シナジーの予想金額の対外発表は積極的に

  日本でも「企業価値向上の3本の矢」によりIRの重要性は増している(図1)。更に…



マッキンゼー・アンド・カンパニー

■筆者経歴

野崎大輔(のざき・だいすけ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー
M&Aや合弁事業立ち上げを含むコーポレートトランザクション、事業統合マネジメント、戦略立案、次世代リーダー育成など、豊富な専門的知見を活かし幅広い分野のクライアントにコンサルティングを提供。日系企業のM&Aプロジェクトのプロセス全般における支援のほか、製造業、資源・エネルギー、消費財、ヘルスケア、戦略的投資家、機関投資家など、幅広いクライアントに関わる数多くのプロジェクトに従事。また、合弁事業立ち上げやその他のパートナーシップ締結も積極的に支援。
経営統合マネジメントにおいては、完全買収、マイノリティ投資、合弁事業立ち上げ、事業パートナーシップ締結など、様々な投資形態におけるプロジェクトに携わり、シナジー創出による投資対効果の最大化、オペレーション改善策の策定、クライアント企業の経営陣とチームメンバー双方を巻き込んだインプリメンテーションプログラムの開発に注力している。
2003年9月から2006年8月までマッキンゼーに在籍し、その後2012年6月に復職。Kohlberg Kravis Roberts (KKR)およびゴールドマン・サックスでの勤務経験を持つ。
東京大学大学院人文科学研究科英語英文学専攻修士課程修了。

加藤千尋(かとう・ちひろ)
マッキンゼー・アンド・カンパニー アソシエイト・パートナー
M&Aやアライアンス、PMIや成長戦略を専門に、電子機器、半導体など製造業のクライアントを中心にサポート。シリコンバレー・オフィスでは、現地企業の成長戦略やM&A戦略および大型PMIに従事。日本でもクロスボーダーのM&Aやアライアンス、PMI、テクノロジー戦略といったテーマを専門に担当。また、製造業企業の全社変革プロジェクトにも従事。2007年にマッキンゼー入社。2013年にアメリカのシリコンバレー・オフィスに転籍、2017年に日本オフィスに復帰。
京都大学理学研究科修士/スタンフォード大学にてMBA取得。





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