[M&Aフォーラム賞]

2014年11月号 241号

(2014/10/15)

第8回 M&Aフォーラム賞が決定――M&Aフォーラム賞『RECOF賞』などに4作品が受賞

  サーベイを踏まえた上で、企業再生M&Aを成功に導く条件は何か、日本電産の4つの事例〔トーソク、コバル、三協精機、日本サーボ〕を具体的かつ丁寧に分析し、スポンサー企業のケイパビリティの重要性を抽出しています。

  最後に、スポンサー企業のケイパビリティに関する3つの仮説について、きめ細かな計量分析による検証を行っています。

  実証分析においては、スポンサー企業の縮小ケイパビリティ〔純資産比率〕、業績改善ケイパビリティ〔労働生産性成長率〕、戦略的ケイパビリティ〔多角化を除く、新市場開拓、新製品開発、市場浸透〕が企業再生M&Aにプラス影響を与えていることを論証しています。

  本論文は、再生戦略とケイパビリティの関係を明確化すると共に、日本の企業再生M&Aを成功させるスポンサー企業について、『同種事業を営む企業である必要はなく、財務力があり、M&Aに深くコミットメントすることが求められる』との結論を導いています。論旨の明快さ、骨太な論理展開と実証分析を備えた著作であります。

  M&Aフォーラム賞奨励賞『RECOF奨励賞』を受賞した飯田秀総著『株式買取請求権の構造と買取価格の考慮要素』は、利害相反要素のある合併等について、株式買取請求権とその買取価格をめぐる法的課題をアメリカのデラウェア州の法例、法理と比較検討し、日本のあるべき姿を論じた学術的な価値の高い作品であります。本書が明らかにしている点は、以下の3点です。

  まず、第1に、支配従属関係にある企業買収において、支配会社が、常に自己に有利な条件で再編が行われるという前提にたつ日本の現行法制度に対して、その搾取仮説が成り立っていないことを実証分析しています。

  第2に、日本では支配株主・取締役に対する信認義務違反の規律が弱いことに対するバランス回復のために買取価格にシナジーを考慮するとしても、それだけでは交渉プロセスの適切化には不十分であることを論証しています。なお、アメリカのデラウェア法では、支配株主・取締役の信認義務違反に関する差し止め・損害賠償請求により少数株主を保護しているため、買取価格にシナジーを考慮する必要がないことは留意すべきです。

  第3に、買取請求権は、合併等の価値上昇を保障するためのスクリーニング機能として理解すべきであるとしています。

  最後に、株式買取請求権に関する日本における具体的な提案では、買取価格について、ナカリセバ価格(決議なかりせば其の有すべかりし公正なる価格)からシナジー適切分配価格に転換するのではなく、『合併等が価値上昇型になるよう保障しようとする事前規制としてのスクリーニング機能を果たしている』との解釈に立って、ナカリセバ価格に戻すことが望ましいと主張しています。

  同じくM&Aフォーラム賞奨励賞『RECOF奨励賞』を受賞した宍戸善一・福田宗孝・梅谷眞人3人の共著『ジョイント・ベンチャー戦略大全 設計・交渉・法務のすべて』は、合弁事業におけるパートナー間の動機付け交渉に関するゲーム論に基礎をおく法と経済学、とりわけ、契約理論を導きの糸として、合弁事業理論の体系化を図っています。同時に、実務家が、ジョイント・ベンチャーから得られる経済的な利益〔持分利益、取引利益、反射的利益〕を最大化し、『海外の交渉相手と悔いのない交渉が可能となる』ガイドブックになることを狙いとした書です。

  交渉の前提、交渉の対象、交渉結果の法的確定方法(MOU、LOI)、ジョイント・ベンチャーの発展過程とその終了に至るまで、合弁事業の発展段階に応じたガバナンス・プロセスの変化について、論理的に首尾一貫した論述を行っていることには好感がもてます。特にジョイント・ベンチャーに拠出された人的資本や知的財産を巡る交渉についての考察は秀逸です。ジョイント・ベンチャーに関する支配の分配、果実の分配、退出について、パートナー間の利害対立と不安にその主要なリスクがあるとの観点から、有効なリスク管理を行うための仕組みを提示していることは、高く評価されます。ジョイント・ベンチャーの生成、発展、解消について包括的な記述がなされ、交渉のプロセスを中心に、法律と経済学を横断的に整理して述べた著作と言えます。

  3作品はいずれも甲乙つけがたい力作であり、異なる分野の優れた業績を比較することは、容易ではありません。しかし、日本における企業再生とスポンサー企業のケイパビリティの関係をわかり易く、かつ論理的かつ実証的に明確化している点が評価され、審査委員の満場一致で『スポンサー企業のケイパビリティと企業再生M&Aの成果』をM&Aフォーラム賞の正賞とし、『株式買取請求権の構造と買取価格の考慮要素』『ジョイント・ベンチャー戦略大全 設計・交渉・法務のすべて』の2作品は、奨励賞を授与することで決定しました。

  次に、M&Aフォーラム賞の前身であるRECOF賞を受け継ぎ、学生論文を対象として表彰を行ってきましたM&Aフォーラム賞選考委員会特別賞について、授賞の議論・検討を行い、寺前慎太郎著『支配株主による締出しの場面における特別委員会のあり方』を全会一致で授与の決定をしました。

  支配・従属会社間における企業買収において、支配株主が少数株主に対する便益配分を適切に行うことを怠る可能性があります。この利益相反を回避する措置の一つとして、支配株主との交渉権限を付与された特別委員会の役割があり、デラウェア州の最近の判例法理を踏まえた上で、日本における特別委員会に関する具体的な提言〔特別委員会の人数、メンバーの選定方法、メンバーのふさわしい属性、メンバーに求められる独立性〕を行っており、学術奨励賞としての授賞に値する作品であります」

落合氏  また、M&Aフォーラムの落合誠一会長(中央大学法科大学院教授、東京大学名誉教授)は同フォーラムの活動について次のように述べた。

「日本経済は、アベノミクス以降、円安、株高が続き、多くの企業で業績改善が図られ、これに足並みを揃えるかのように、日本企業のM&Aも活発化しています。成熟期を迎えつつある国内市場では、M&Aによる整理統合が進み、海外市場では、グローバル展開に向けて、M&Aによる積極進出が図られるようになっています。M&Aは、企業の成長・活性化に向けた経営戦略の中核として再び活用されています。

  私共のM&Aフォーラムは、2005年、内閣府経済社会総合研究所のM&A研究会でその設立が提唱され、わが国のM&Aの健全な発展と普及を促進する活動を行う場として設立された民間ベースのフォーラムです。
 

バックナンバー

おすすめ記事

アクセスランキング