[マールレポート ~企業ケーススタディ~]

2021年5月号 319号

(2021/04/15)

X線分析・測定・検査機器のトップメーカー「リガク」がカーライルと組んで描く成長戦略

―― 数年後のIPOを目指し、さらなるM&Aにも積極的に取り組む

富岡 隆臣(とみおか・たかおみ)

富岡 隆臣(とみおか・たかおみ)(カーライル・ジャパン・エルエルシー 副代表、マネージング・ディレクター)

早稲田大学法学部卒。米ニューヨーク大学にてMBA取得。日本長期信用銀行に13年勤務。うち9年間は東京及びロサンゼルスにおいてシンジゲートローンのアレンジ業務及び事業戦略アドバイザリー等の企業金融業務に従事。1998年にGE Capital Japanに移籍。日本リース等の買収を担当するとともに、GE Equity Japanの立ち上げに参画。GE Equityの日本代表として、主にGEとの事業シナジーを追求した投資を実行し、4社を上場させた。2003年カーライル・ジャパンに移籍。20年1月副代表に就任。現在マネージング・ディレクターとして事業承継案件とその他中型バイアウト案件を担当。消費財・小売り・ヘルスケア業界の責任者として、これまで、クオリカプス株式会社、株式会社ソラスト、株式会社おやつカンパニー、三生医薬株式会社、オリオンビール株式会社などへの投資を主導してきた。

持株会社を設立

 米カーライル・グループ(以下「カーライル」)と、X線分析・測定・検査機器のトップメーカーであるリガクの志村晶代表取締役社長が、共同出資して新たに設立した持株会社を通して、2021年3月リガクの全発行済み株式を取得した。投資額は約1000億円と見られている。

志村晶リガク代表取締役社長
志村晶リガク代表取締役社長
 リガクは1951年に「理学電機」として設立され、2004年に理学電機が販売会社のリガクを統合し、「株式会社リガク」として新たなスタート切った。同社は、1952年に世界で初めて回転対陰極型X線発生装置(ロータフレックス)を開発、1954年には日本で初めて自動記録式X線回折装置(ガイガーフレックス)を開発するなど、X線分析・測定・検査機器の領域において日本を代表するテクノロジー企業で、X線装置では国内でトップシェア、海外でもトップクラスの地位を確立している。

 製品は、さまざまな材料の組成分析や構造解析に用いられ、大学、研究機関、および半導体、電子デバイス、製薬、鉄鋼、セメントなど幅広い分野の大手民間企業を含め、グローバルに1万社以上の多様な顧客基盤を有し、年間売上は約441億円、うち海外売上比率は約65%にのぼる。

 志村社長と組んだ、カーライル・グループ(米国)の2020年12月末時点の運用資産は総額で2460億ドル。カーライル・ジャパンは2000年設立以来、21年間で三共理化学、センクシア、シーバイエス、ツバキ・ナカシマなど27件の投資を実行。2020年3月に日本のバイアウト第4号ファンド(カーライル・ジャパン・パートナーズIV)設立で2580億円の資金調達を完了している。

 志村社長と持株会社設立を通してリガクの全発行済み株式を取得したカーライル・ジャパンの富岡隆臣副代表に、リガク買収の経緯と今後の成長戦略を聞いた。

<インタビュー>
成長分野のライフサイエンス領域で積極的なM&Aも

 富岡 隆臣(カーライル・ジャパン・エルエルシー 副代表、マネージング・ディレクター)

MIT出身の縁で10年前から接触

―― 米カーライル・グループと、X線分析・測定・検査機器のトップメーカーであるリガクの代表取締役社長の志村氏が、共同出資して設立した持株会社を通して、リガクの全発行済み株式を取得しました。カーライルがリガクの株式を取得するに至った経緯について聞かせてください。

 「志村社長はマサチューセッツ工科大学(MIT)3年生の時に父君の義博氏が急逝されたということもあって、MIT在学中の1971年に義博氏の跡を継いでリガクの社長に就任されました。実は、カーライル・ジャパンの日本代表を務めた安達氏(保、現シニアアドバイザー、ベネッセホールディングス代表取締役社長 CEO)もMITのスローン経営大学院でMBAを取得していて、日本MIT会会長を志村社長から安達氏がバトンタッチされたという親しい関係もあったものですから、10年ほど前に、検査装置大手の米パーキンエルマーの元CEOでカーライルのバイアウト部門の幹部であるグレッグ・スミー氏が来日した際に、志村社長にスミー氏にお会いいただいたというのがそもそものきっかけになります。

 当時は、志村社長も60代で経営者として脂の乗った時期でもあったのでビジネスの話にはならなかったのですが、その後、志村社長は事業承継について考えるようになったと伺っています。当初は事業会社に経営権を譲るということも選択肢として考えられたようですが、事業会社の傘下に入ると、その事業会社の方針が優先されます。リガクは約250人にのぼるX線分野をはじめとする専門家がR&Dに関わっている頭脳集団で、この人材が会社の最大の成長エンジンでもあります。それだけに、従業員を主役にしてくれることが事業承継の非常に重要なポイントであると考えておられました。結局、事業会社への譲渡は実現しなかったのですが、そんな中、志村社長に約2年前にカーライルの共同創業者であるビル・コンウェイ氏と東京でお会いいただき、その後、新型コロナ禍でもネット会議を重ねるなどして話が具体的に動き出したのです」


持株会社の下で組織改革

―― 志村氏との共同出資によって設立した持株会社を通して、リガクの全発行済み株式を取得されましたが、このスキームについて詳しくお聞かせください。

 「株式を買い取る特別目的会社を設立し、それを『リガクホールディングス株式会社』という社名にしました。この持株会社がリガクの株式を100%保有しています。ここに志村社長が再投資し2割、我々が8割を保有するという形態で運営していきます。

 今後、リガクが海外に展開している15の子会社をリガクホールディングスの下に置く組織改革の検討を行います」


経営体制について

―― 新たな経営陣の構成についてお聞かせください。

富岡 隆臣氏
 「志村さんには当面社長を続けていただきます。また、リガクの取締役の方々もホールディングスに入っていただきます。カーライルからは私を含めた3人のディールチーム、それからシニアアドバイザーでGEヘルスケアの代表取締役社長兼CEOを長年務められた川上潤氏、さらに米国カーライルのシニアアドバイザーをしているトム・ラバート氏にも社外取締役として加わってもらい、グローバル展開強化のために強力な支援体制を敷きます」


日本約60%、グローバルで25%のシェア

―― リガクは1951年に設立され、X線分析・測定・検査機器の領域において日本を代表するテクノロジー企業へと発展し、特にX線回折(”XRD”:X-Ray Diffraction)、蛍光X線分析(”XRF“:X-Ray Fluorescence)の領域を中心に、国内ではトップシェア、海外でもトップクラスの地位を確立しています。グローバルなX線分析・測定・検査機器市場についてどのように見ていますか。

 「ご存じのように、X線は1895年ドイツのヴィルヘルム・レントゲンによって特定の波長域を持つ電磁波が発見され、X線として命名されました。すでに100年以上も前の発見ですが、X線領域ではこれまでにノーベル賞を受賞した人が15人もいます。それぐらいX線を使ったイノベーションは起き続けているのです。繊細なものを可視化するために、電子線、磁気、熱分析など様々な手法が開発されてきましたが、X線が果たす役割はいまだに大きく、したがってイノベーションが起き続けているということです。

 リガクは、グローバルにX線関連の特許を圧倒的に保有しているということもあって、市場をある意味では作っているともいえる存在です。過去5年間のグローバルマーケットの成長率は約5%で、今後も5%程度の成長は続くと見ています。現在のXRD、XRF検査装置のグローバル市場は約2000億円、日本市場は約250億円で、リガクは日本で約60%のマーケットシェア持っていますから圧倒的な存在で、グローバルでも約25%のシェアを獲得しています。リガクのこの5年間の成長を牽引したのは半導体の膜厚の検査で、半導体が微細化、積層化する中で圧倒的にリガクの製品が半導体工場のラインに入っています」


今後の成長戦略

―― 大学、研究機関、および半導体、電子デバイス、製薬、鉄鋼、セメントなど幅広い分野の大手民間企業を含め、グローバルに1万社以上の多様な顧客基盤を持ち、年間売上高約441億円、このうち海外売上比率は約65%にのぼると言われています。リガクのビジネスモデルと現状の課題、今後の成長戦略についてお聞かせください。

 「日本のマーケットで約60%という圧倒的なシェアを持っているにもかかわらず、グローバル市場でのシェアは今申し上げたように25%です。競合は、ドイツのBrukerとオランダのPANalytical(パナリティカル)で、この3社のほぼ寡占に近い状態になっています。しかし、マーケット全体を俯瞰すると、リガクはBruker、PANalyticalにまだ負けているところがあります。製品、技術に対する信頼性は圧倒的に高いので問題ないのですが、課題はセールス・アンド・マーケティングです。これを強化しなければいけないということと、マーケットドリブンの製品開発の強化も必要です。メーカーがキラーコンポーネンツを持っているかどうかは非常に重要で、リガクの半導体分野での成長はまさにマーケットドリブンの製品開発にありました。ファインケミカル、電子部品、鉄鋼などそれぞれの業種やエンドマーケットによって特異なニーズがあります。そのニーズをしっかりつかんで製品開発をし、業種ごとに専門性を持った営業部隊がしっかりと販売をしていくことが重要だと思います。もちろん海外の営業の強化、見直しも大事な取り組みになります。

 もう1つの重要な取り組みは、サービス収入を増やすことです。サービス収入というのは、消耗品の提供や修繕、修理、メンテナンスサービスで、リガクは売上高の20%弱を占めています。5年、10年のスパンで保守契約を結びリカーリング修理を取っていくというのは大事なビジネスモデルで、これを25~30%ぐらいにまで拡大していきます。特に海外でのサービス収入比率を強化していくことが、トータルでリガクの収益構造を改善していくことになると思っていますので、そのためにIOTを使ったリモートモニタリングも行い、強力なサービス体制を海外でも構築していく必要があると考えていまして、幹部クラスも含めて必要な人材を補強していくことも合わせて進めていきます」


単体でできなかったような規模の買収も

―― 事業拡大のためのM&Aについてはどのように考えていますか。

 「志村社長とも意見が一致しているのですが、今後強化していかなければいけないのはバイオ医薬品の開発も含めたライフサイエンス領域だと思っています。この領域については、X線分野に限らず他の技術も買収によって取得することが、これからのリガクの成長戦略の中で重要になります。

 すでに、これまでリガクは1996年に米国Molecular Structure Corporationを買収したのをはじめ、2000年に米国Osmic, Inc.(現RIT)、2010年に米国Newton Scientific, Inc.、さらに2019年にはイスラエルのXwinSys Technology Development Ltd.を買収するなど、グローバルな買収を通して必要な技術を獲得し、会社の業容を拡大するということを行ってきましたから、M&Aには全く抵抗がないと思います。すでにカーライルのグローバルなネットワークからM&Aの候補先に関する情報も入ってきていまして、特に欧米については今までリガクが単体でできなかったような規模の買収もこれからは仕掛けていけると考えています」


数年後を目標にIPO

―― 今後はIPO目指すようですね。20年3月決算の売上は441億円ですが、IPO時にはどのくらいの売上高を予想していますか。

 「数年後にIPOを目指したいと考えています。市場の成長が年に5%と見られていますから、巡航速度でも売上高で100~150億円は積み上げていって不思議ではないですが、今後M&Aも視野に入れていますから一概には言えません。

 今後は事業の拡大はもちろんですが、公開会社にふさわしい組織の構築も重要です。その一環が先ほど申し上げた組織改編で、ホールディングカンパニーを頂点としたグローバルの組織改編によってしっかりとしたグローバルガバナンス体制を作っていく、そのためのお手伝いもさせていただきます」

(編集委員 池田耕造)

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