[特集インタビュー]

2013年10月号 228号

(2013/09/15)

老舗メーカーの組織に火を点けた“ファンドから来た経営者”

 中尾 真人(日本オイルポンプ 代表取締役社長)
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中尾 真人社長

ポラリス・プリンシパル・ファイナンスから経営を託されて

  日本オイルポンプ(以下NOP)は、1980年設立(創業1919年)。主力製品は「トロコイドポンプ」という工作機械用の温度調節器等に使われるポンプである。シェアはグローバルで70%以上、国内ではほぼ100%というニッチトップの老舗メーカーだ。

  同社の沿革をたどると、2004年にインテグラル・インベストメント及び日本プライベートエクイティが運営するMBOファンド「TAKUMI1号投資事業有限責任組合」及び「TAKUMI2号投資事業有限責任組合」(以下、総称して「TAKUMI継承ファンド」)が経営権を取得、その後08年3月ポラリス・プリンシパル・ファイナンス(以下、ポラリス)が運営するポラリス第二号投資事業有限責任組合がTAKUMI継承ファンドからNOPの発行済み株式の100%を取得するとともに、NOPにグループ6社を統合して新たな成長を目指すことになった。

  ところが、08年9月のリーマン・ショックの影響で約60億円だったNOPの年間売上高は30億円にまで落ち込んでしまった。これを打開するため、ポラリスから経営を託されたのが、中尾真人氏だった。

 「NOPの主力製品である工作機械向けの冷却油用ポンプは、優れた技術がないと造れないキーデバイスです。したがって景気が回復すれば業績も戻ることについてはポラリスも自信を持っていました。しかし、景気回復と共に元の状態に戻るのではなく、これを機会に以前よりもいい会社にしてほしいということで私が相談を受けました。私が引き受けた理由は、元々私が製造業を好きだったということもありますが、この会社の内容を見た時に、開発・製造・販売というすべてのバリューチェーンを持っていたことに魅力を感じたからです。こういう企業は、改革をすべきポイントがたくさんありますから、成長余力があると直感しました」

  中尾氏は1962年東京生まれ。87年慶応義塾大学大学院理工学研究科工学修士取得、同年4月東京電力入社。米国Rensselaer Polytechnic Institute MS & MBAを取得した後、95年ボストン・コンサルティング・グループに入り、流通再編、収益改善、連結経営(事業再編)など幅広く経験。02年には機械部品製造販売会社ミスミ(現ミスミグループ本社)の三枝匡社長(現代表取締役会長 Co-CEO)の後を追って同社に入社。取締役執行役員(アジア事業部長 兼務)としてミスミ中国事業の総責任者となり、上海ミスミ精密機械有限公司で事業拡大の指揮にあたった。その後、05年MKSパートナーズに転じ、新規投資案件開拓、事業デュー・ディリジェンス、機関投資家対応などPE業務を広く経験。09年8月よりポラリスに非常勤顧問として参画。09年9月NOP取締役副社長に就任、10年3月より代表取締役社長に就任した。

 「大学は理工系を出ましたから、とにかく大きなシステムをつくる職業に就きたかったのです。人類が築いた最大のシステムというのは電力システムであると思いまして、巨大なプラント、巨大なシステムをつくる夢を抱いて東京電力に入りました。しかし入社後、エンジニアだけをやっていても満たされないものを感じるようになりました。そんな折、東京電力の社内の留学制度に応募しまして、MBAを取る機会を与えられたのです。それを機に本気で経営について学びたい、ということで米系の戦略系経営コンサルティング会社であるボストン・コンサルティング・グループに移ったわけです。コンサルタントとしての7年間は非常に勉強になりましたし、私としても満足だったのですが、実践を積むことが必要だと思いまして、ボストン・コンサルティングの大先輩である三枝さんをお訪ねしたのです。三枝さんは実際に企業に入り、会社を大きく変えておられた。それは当時の私からすると非常に理想的に見えたのです。三枝さんはちょうどミスミから経営を負託されていました。それで『君も来たいなら来い』と言っていただきまして。三枝さんがミスミの社長に就任されるのとほぼ同時に、ミスミに入りました。

  三枝さんから学んだことは、一言で言えば経営の全てです。当時の私に欠けていたことで、今でも非常に役に立っていることは、人の動かし方だと思います。人を動かすには、自分自身が熱くならなければいけない。現場に入ってすべてを理解したうえで、系統だって仕組みをつくることの大切さを教えていただきました。それは時に厳しい指導でした。ただ今思えば、それがすべて私にとっては血となり肉となっていますので、非常に感謝をしております。その後、経営に必要な様々な選択肢を持っていることが重要だ、ということに気づきまして、かなり悩みましたが、金融の世界に入ってみようと考えてプライベートエクイティ・ファンドであるMKSパートナーズの松木伸男代表取締役と一緒に仕事をすることにしました。三枝さんから様々学んだことを実際に株主の立場でMKSのポートフォリオカンパニーのバリューアップに生かしたのです。しかし、08年MKSパートナーズが総額約600億円の傘下のファンドを解散する意思決定をしまして、私を含めて3人のパートナーが最後の片づけをして、『さてどうしようかな』と思っているところにポラリスからこのお話をいただいたわけです」

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