[特集インタビュー]

2015年2月特大号 244号

(2015/01/15)

「アベノミクス2」が避けて通れない課題

 小峰 隆夫(法政大学大学院 政策創造研究科 教授、日本経済研究センター 理事、研究顧問)
  • A,B,EXコース

小峰 隆夫(法政大学大学院政策創造研究科教授、日本経済研究センター理事、研究顧問)

【第1部:「アベノミクス」3本の矢の評価】
・「第1の矢」、「第2の矢」による短期的な効果は限界に
・公共投資主導型成長の問題点
・独立財政機関の設置を

【第2部:「アベノミクス2」の課題と提言】
・成長戦略に不可欠な岩盤規制打破
・潜在成長力を阻害する日本的雇用慣行
・「第4の矢」――財政再建を急げ
・民意のバイアスと軽減税率

【第3部:日本経済論を巡る誤謬】
・「TPP亡国論」という亡国論
・「貿易黒字は善」、「貿易赤字は悪」の誤り

【第1部:「アベノミクス」3本の矢の評価】

「第1の矢」、「第2の矢」による短期的な効果は限界に

-- 経済政策「アベノミクス」(大胆な金融政策・機動的な財政政策・民間投資を喚起する成長戦略)継続の是非を最大の争点に掲げて行われた2014年12月の総選挙で、与党の自民党、公明党は326議席を獲得して勝利し、衆議院の3分の2(317議席)超を維持しました。これによって第3次安倍内閣がスタートすることになったわけですが、まずこれまでのアベノミクスの評価についてお話しいただけますか。

「第2次安倍内閣が進めたアベノミクスは、2つのステージに分けると理解しやすいと思います。

  第1ステージは、2014年3月までの時期で、経済が順調に拡大し、アベノミクスの成果が大いに発揮されたと言えます。これを支えたのが、『円安・株高』『公共投資』『消費税増税の駆け込み需要』という3つの要因でした。

  ご存知のように、この第1ステージでは第1の矢である『大胆な金融政策』によって円安・株高が急速に進展しました。これは、民主党政権からの政策スタンスの大転換が、サプライズ効果となって市場を動かしたからだと考えられます。株高は経済の雰囲気を明るくしましたし、資産効果を通じて消費を増大させました。また、円安は製造業の収益を好転させ、輸入物価の上昇を通じて物価上昇率を引き上げて、デフレからの脱却に貢献したと思います。また、アベノミクス第2の矢である『公共投資』も景気拡大に一定の寄与をしました。2013年度の政府固定資本形成は、15.1%の伸びとなりましたが、経済全体の成長率は2.3%で、そのうち0.8%はこの公共投資の増加によってもたらされています。これに加えて、2014年4月からの消費税率引き上げを控えての駆け込み需要が2013年度の成長率を引き上げました。

  この3点セットの効果によって、アベノミクス第1ステージにおいては、多くのエコノミストの予想を大きく超えて経済情勢が好転したと言っていいと思います。

  そのアベノミクスは、2014年4月の消費税増税以降、第2ステージに入ったと私は見ています。円安・株高の動きは一本調子ではなくなりました。10月末には、日本銀行による異次元緩和第2弾が発動されて再び円安・株高になっていますが、第1幕では好感された円安については、否定的な評価も目立つようになっています。これは、第1ステージにおける円安が『過度の円高』の修正であったのに対して、第2ステージでは『過度の円安』の動きに対する警戒感が出ているからだと思います。私は、短期的な第1の矢、第2の矢の効果は限界にきていると見ています。そうしたなかで長期的な成長政策はまだ不十分で、今後は難しい課題の解決を迫られることになると思います」

-- 内閣府が2014年12月8日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)は、物価変動を除いた実質で前期比0.5%減、年率換算では1.9%減。名目GDPは前期比0.9%減、年率では3.5%減となりました。こうしたこともあって2015年10月に予定されていた10%への消費税率の再引き上げは17年4月に先送りされることになりましたが、4月に行われた5%から8%への消費税率引き上げの影響が予想外に経済成長へのマイナスの影響を及ぼしたとは言えませんか。

「3%消費税を上げると2%物価が上がるといわれています。ところが、賃金の方は2%上がるわけではありませんから実質所得が2%下がったということになります。それによって消費が悪くなってしまった。消費税を1%上げれば、経済成長率に約0.15%のマイナスになります。今回は3%上げましたから0.45%~0.5%くらいは成長率が引き下げられるということは最初からわかっていたことです。問題は企業の在庫の動きで、4~6月に在庫投資がものすごく増えているのです。これによって、相当成長率が押し上げられているはずなのですが、それでもマイナスの結果になったということは、在庫による押し上げ効果がなかったらもっとひどいマイナスだったということになります。その後、在庫の取り崩しがありましたから生産が増えなかった。これが7~9月には相当大きなマイナスとして効いていると思います」

-- アベノミクスによる異次元の金融緩和を支持したいわゆるリフレ派は、予想インフレ率上昇によって投資・消費が増え、それに伴って生産と雇用が拡大してデフレによる経済停滞から脱却するというシナリオを描いていました。2013年4月の量的・質的金融緩和開始以降2014年初めまでは、小峰先生も言われたようにこのシナリオが的中したかのようにも見えました。しかし、鉱工業生産指数は2014年1月がピークで、インフレ率も4月以降は上昇率が鈍化しています。リフレ政策によって企業の投資が増えて、企業から家計への所得移転が行われ、消費が伸びるという循環には至らずに、非金融法人企業部門は1998年度以降、資金余剰を続けているのが現状です。つまり、企業から家計への十分な資金移転がない中で、増税によって家計から政府への資金移転が行われれば、家計消費が減退するのは当然です。この点をアベノミクスは見誤ったということでしょうか。

「日本の産業構造モデルが変わってきているということが非金融法人企業部門に余剰資金が貯まっていることの背景にはあると思います。というのは、アベノミクスで円安になったわけですが、円安下での輸出企業の戦略としては、円安になった分を海外での販売価格に反映させて、実質的な値下げによって販売量を増やすという戦略もありますし、販売価格を据え置くことで販売量の拡大ではなく収益を狙うという戦略を採るところもあるでしょう。調べてみますと、多くの企業は販売価格を下げなかった。つまり、収益が増える一方で輸出量は増えていないのです。よく円安なのに輸出は増えないと騒がれていますが、それは当たり前で、その一方で輸出企業は収益がものすごく増えたわけです。では、それだけ収益が増えたのなら、なぜ賃金を上げないのかということになりますが、海外企業のM&Aも含めて生産拠点をどんどん海外にシフトしている中で、国内拠点での生産拡大の予定がないのに賃金を増やしていくという方針もなかなか取りにくいということです。つまり、従来型の国内で製造して海外に輸出するという輸出主導型の産業構造ではなくなってきているなかで、円安による収益だけが増えてしまったということではないかと思います」

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