[業界動向「M&Aでみる日本の産業新地図」]

2013年8月号 226号

(2013/07/15)

第103回 人材サービス業界 生き残りをかけたM&Aが増加

 編集部
  • A,B,EXコース

  デフレ不況と規制強化によって縮小する人材派遣市場。シェア拡大やサービスメニューの多様化、事業の特化による差別化を狙って積極的なM&Aが展開されている。有力アナリストに人材サービス業界の現状とメーンプレーヤの戦略を聞いた。

9兆円の市場規模

  2011年11月、社団法人全国求人情報協会、社団法人日本人材紹介事業協会、社団法人日本人材派遣協会、社団法人日本生産技能労務協会の4つの人材サービス産業の民間団体が、人材サービス産業の機能や社会的役割、今後の労働市場の課題に関する研究報告「2020年の労働市場と人材サービス産業の役割」をまとめた。

   同報告書によると、求人広告、職業紹介、派遣、請負という人材サービスの代表的な形態について推計した市場規模(請負は08年度、それ以外は09年度の数字を使用)は、求人広告年間売上高9866億円、職業紹介1861億円、派遣6兆3055億円、請負1兆5757億円となっており、これらを合計すると9兆539億円になる。このうち、人材サービス産業の過半を占める派遣事業についての市場規模の推移を見ると、01年度には1兆9462億円であったものがその後高い成長率を維持し、08年度には7兆7892億円にまで拡大した。しかしその後、経済不況や労働者派遣法による規制強化で09年度には6兆3055億円、10年度には5兆3468億円と縮小しており、派遣業業者にとっては市場環境の変化に対応した戦略の強化が求められている。

2012年改正労働派遣法のインパクト

  日本における近代的な人材派遣ビジネスは、マンパワー・ジャパンが設立された1966年を嚆矢とする。その後、テンプスタッフ(現テンプホールディングス)が73年に設立されたのをはじめ、多くの国内系人材派遣会社が誕生した。しかし、当時は人材派遣が正式に法律で認められていたわけではなかった。労働者派遣法が成立したのは85年で、翌年、施行された。ここから日本における人材派遣の歴史が正式に始まったと言っていい。ちなみに、労働派遣法上、人材派遣は、一般労働者派遣事業、特定労働者派遣事業の2つに分類される。一般労働者派遣事業とは、事前に登録された派遣労働者の情報をもとに労使ニーズをマッチングさせ、派遣先企業と人材派遣事業者とが契約した派遣期間のみ人材派遣事業者が派遣労働者と契約を交わし派遣先企業に派遣するという業態である。この事業は、登録型派遣事業とも呼ばれる。他方、特定労働者派遣事業は、期間を決めずに派遣労働者を雇用し、派遣先企業の必要に応じて労働者を派遣する(派遣契約終了後も雇用契約は継続)という業態で、常用型派遣事業とも呼ばれる。

   派遣法施行後は、バブル経済の影響もあって人材派遣市場も順調に拡大していった。しかし、1990年代から2000年代にかけては、バブル経済の崩壊、金融危機、デフレ不況の長期化に直面することになる。産業界では、直接雇用の人件費(固定費)を人材派遣の活用により変動費に置き換えたいというニーズが高まる中、規制緩和によって民間の活力を引き出すという政府の基本方針もあって、この時期には派遣業務の対象範囲拡大や派遣期間延長が行われた。具体的には、99年には対象業務の原則自由化、04年には製造派遣解禁が行われている。

  しかし、08年のリーマンショック以降、製造業を中心に派遣切りや雇い止め、人材派遣をめぐる違法行為の発覚などが相次ぎ、若年層の貧困化やワーキングプアの存在などが急激に社会問題化したこともあり、12年10月施行の改正派遣法では日雇い派遣の原則禁止など規制を強化する方向性が打ち出されることになった。

 

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