[視点]

2022年2月号 328号

(2022/01/13)

米国におけるESGとM&A

大久保 涼(長島・大野・常松法律事務所ニューヨークオフィス 弁護士・ニューヨーク州弁護士)
  • A,B,EXコース
M&AにおけるESG対応の必要性

 議決権行使助言会社であるISSは、2021年12月7日、2022年2月1日以降に開催される株主総会向けの最終議決権行使助言基準を発表した。その米国部分の改訂は、近年の株主のESG問題への関心の高まりを受けて、ダイバーシティ、気候変動などが中心となっている。気候変動については、その運営又はバリューチェーンを通じて温室効果ガスを相当程度排出する会社には、気候変動関連リスクを理解・評価・低減するために必要な最低限の措置として、気候関連リスクの詳細な開示及び適切な温室効果ガス排出削減目標を定めることを求めるなどの内容が含まれている。

 このように米国会社によるESG対応は近年益々重要性を増しており、特に機関投資家はESGへの配慮を強く求める傾向にある。2006年に国連主導で発足したESG投資の世界的プラットフォームである責任投資原則(The Principles for Responsible Investment)に、2021年現在で総額120兆ドル以上の資産を有する投資家が調印しているというデータ(注1)等からもかかる傾向が窺える。積極的なESG戦略を推進することは、株主との対話を促進し、また長期的な企業価値の向上に資する反面、ESG戦略で失敗すると企業価値に深刻な悪影響を及ぼしうるということが益々意識されている。従業員、顧客、取引先も会社のESGへの寄与の程度を重視するようになっており、ESGへの寄与は企業のブランド価値に直結しつつある。そのような潮流の中で、M&A取引の検討に際してもESGは無視できないものとなりつつあり、ESGリスクの低減とESG関連のシナジーの最大化が重要な課題である。具体的にはESGデューデリジェンスをどのように行うか、買収契約においてESG関連リスクをどのように取引当事者間で配分するか、クロージング後のESG関連のPMIをどのように行うかが問題となる。


ESGリスクの具体的内容

 ESGリスクは、具体的には、法令遵守上のリスク、アクティビストリスク、訴訟リスク、レピュテーションリスクなどに分解できる。法令遵守上のリスクとしては、米国においても、EUのように、ESG関連の開示を上場会社に義務化する動きが強まっており、SECは2021年3月からのパブリックコメント(注2)を経て気候関連の開示を上場会社に強制するルールを近日中(注3)に発表予定である。アクティビストリスクとしては、

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