2024年8月、セブン&アイ・ホールディングスが、カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けたことを契機として、外国投資家による日本企業への投資を規制する「対内直接投資審査制度」への関心が高まっている。
対内直接投資審査制度とは、
外為法に基づき、懸念国への日本の重要技術等の流出を防ぐための制度で、①外国投資家が、②一定の業種を営む日本企業に対して、③株式の取得など一定の投資行為を行う場合には、事前届出が必要とされ、国の安全等を損なうおそれがあると認められれば、投資の中止勧告・命令などが行われることになっている。実際のところ、この投資審査はM&Aにどの程度の影響を及ぼすものなのだろうか。
また、セブン&アイHDに対する買収提案の報道がなされた当初、セブン&アイHDは投資審査の対象となる「指定業種」に分類されると報道されていたが、その後9月13日になって、指定業種の中でも特に重要な「コア業種」に分類されると財務省は公表した。このような「コア業種」への分類変更によって、審査の厳しさやスケジュール等に変化は生じるものなのか。
外為法関連の届出に関する案件を数多く取り扱っている上野一英弁護士に、対内直接投資審査制度の概要と企業買収との関係について聞いた。
対内直接投資審査制度とは?
―― セブン&アイHDに対する買収提案を契機として、日本企業に対する投資規制が買収防衛の観点からも注目されています。外為法に定められている対内直接投資審査制度とはどのようなものでしょうか。
「外為法は、健全な投資を促進しつつ、国の安全等に係る技術などが流出することなどを防ぐため、①外国投資家が②事前届出の必要な業種を営む企業に対して、③投資等を行う場合に事前届出を義務付けています。財務大臣および事業所管大臣は、この事前届出を審査し、国の安全等を損なうおそれがあると認められる場合には、投資の変更・中止の勧告・命令が可能となっています。
ここでいう事前届出の必要な『外国投資家』とは非居住者や外国会社がその典型例であり(図表1)、『事前届出の必要な業種』としては、国の安全等の観点から、防衛、半導体、インフラ、ソフトウェア開発などに関連する業種が幅広く指定されています(図表2)。事前届出の必要な『投資等』とは、例えば、上場会社であれば1%以上の株式取得、非上場会社であれば1株以上の株式取得などが該当します(図表3)。
■上野 一英(うえの・かずひで)
2007年慶應義塾大学法科大学院修了。2008年弁護士登録。2014年ジョージタウン大学ローセンター修了(LL.M.)。2015年6月から2017年8月まで経済産業省に出向し、TPP等の通商交渉及び日本国が関わる世界貿易機関(WTO)における紛争解決手続を担当。2017年から国際商業会議所(ICC)通商・投資政策委員会メンバー。学習院大学法学部非常勤講師(2018年~)。
専門は通商法(関税、アンチダンピング、輸出管理、投資・情報規制、経済制裁等)及びこれに関連する企業取引・紛争等。