菅正道・星光PMC 代表取締役社長執行役員(左)と寺阪令司 カーライル マネージング ディレクター
2023年10月、カーライルが設立したインビジブルホールディングスが、
TOBにより星光PMCの株式約45%を取得。その後、星光PMCが親会社DIC所有の残る約55%について
自己株式取得を実施し、2023年12月に東京証券取引所プライム市場から上場廃止となった。
星光PMCは、製紙用薬品の製造販売を目的として1968年1月に大日本インキ化学工業(現DIC)と米国Hercules Incorporated の折半出資による合弁会社ディック・ハーキュレスとして設立された。その後、1992年9月、DICがHercules Incorporated の所有する同社持分を買い取り合弁が解消され、商号を「日本PMC」に変更。さらに、2003年4月に日本PMCを存続会社として、製紙用薬品事業及び樹脂事業を展開していた星光化学工業と合併し、商号を現社名である「星光PMC」に変更している。(下図参照)
星光PMCの売上高は326億円(連結、2023年12月期)。製紙用薬品の販売から始まった星光PMCグループは、現在では国内の製紙用薬品のリーディングカンパニーの地位を保ちつつ、事業分野を製紙用薬品事業のほか樹脂事業、化成品事業、粘着剤事業へと広げている。主力の製紙用薬品や印刷インキ用樹脂の国内市場が成熟化する中で、海外での事業展開や新領域の開拓などに一層注力している。こうした状況を踏まえ、星光PMCとDICは、2022年後半よりDIC所有株式の第三者への譲渡を具体的に検討するに至り、星光PMCは様々な選択肢の中から、カーライルの傘下で成長を目指すこととした。2024年1月の資本構成の変更以降、様々な改革・変革を進めており、2025年4月1日付の「CHEMIPAZ(ケミパズ)」への社名変更もリブランディング戦略の一環。
カーライルの投資の経緯と、これまでに進められてきた再成長に向けた改革を星光PMCの菅正道(かん・せいどう)社長とカーライルの寺阪令司マネージング ディレクターに聞いた。

- <目次>
- カーブアウトの経緯
- カーライルを選んだ理由
- 星光PMCのビジネスモデル
- マーケットの現状と展望
- 若手社員のプロジェクトチームを立ち上げ、新しい経営理念を策定
- 5カ年の中期経営計画で目指すもの
- 新社名に込めたもの
- カーライルから見た星光PMCの魅力と具体的な支援策
- 「経営戦略室」を新設
- カーライルから4人が参画
- 2028年をめどに再上場を目指す
カーブアウトの経緯 ―― 星光PMCは2024年1月、カーライル傘下になりました。本案件の経緯についてお聞かせください。
菅 正道(かん・せいどう)
1983年東京大学法学部を卒業。日本長期信用銀行(現SBI新生銀行)入行。2008年ステート・ストリート信託銀行取締役。2014年星光PMC取締役、19年常務を経て22年代表取締役社長執行役員に就任。
菅 「当社はDICの子会社で、親子上場という状態でした。親子上場は永続的な形態ではないという問題意識は以前からありました。そのためカーライルとの情報交換は2010年の前半頃より継続的に行ってきました。おそらくDICも同じ問題意識をお持ちだったと思います。
2022年後半から、当社はDICと、当社株式の
非公開化を前提としたDIC所有株式の第三者への譲渡を具体的に検討する方向で初期的な議論を開始しました。その後、当社では様々な選択肢の検討を重ね、2023年3月頃から、新たな協業パートナー候補として、カーライルを含む複数のプライベートエクイティ(PE)ファンドとの間で、当社株式の譲渡の可能性について意見交換を行いました」
寺阪 「星光PMCに限らず、親子上場の課題を抱えた企業はあります。DICの資本政策にもかかわってきますから、どこかのタイミングで投資機会があると考え、DICとともに星光PMCとも情報交換をさせていただきました。
もう1つ、星光PMCの事業については、高い技術力を基盤にした事業をお持ちになって、グローバルにも展開できる力があるという評価をしておりました。カーライルはケミカル業界について様々な投資経験を持っていましたから、こうした知見を活かすことで星光PMCのポテンシャルをもっと大きくできるという自信がベースラインとしてありました。
そうこうするうち、2022年後半にDICが資本政策を考える中で、星光PMCのカーブアウトを検討されるというタイミングがきて、本案件が本格的に動き出し、2023年春頃からDIC、星光PMCとの協議が加速化していきました」
寺阪 令司(てらさか・れいじ)
東京大学法学部卒業。タフツ大学(フレッチャー法律外交大学院)修了。スタンフォード経営大学院修了。1994年に大蔵省(現財務省)でキャリアをスタートし、6年間勤務。2003年より10年間カーライルに在籍。2013年以降は株式会社ジャパンディスプレイ、ベルリッツコーポレーション、株式会社マレリ(旧カルソニックカンセイ株式会社)など、様々な業界で上級管理職を歴任。2020年よりカーライルに復帰。現在、マネージング ディレクターとして製造業・一般産業(General Industries)関連の投資先支援業務を主導。
――
デュー・ディリジェンス(DD)を行ったのはいつですか。
寺阪 「2023年6月から7月にかけて星光PMCに対する事業、財務・税務及び法務等に関するDDを実施しました。しかし、DDに入る前段階でお互いのケミストリーが合うか合わないかが非常に大事だと思っています。カーライルは付加価値を提供できるグローバルネットワークを持っていますが、その前に菅社長をはじめとした経営陣と私たちカーライルメンバーが信頼関係を築けるかどうかが重要でした。単に表面的に『同じ方向を目指しましょう』ということではなく、本気で同じ目標を目指す者同士としてどんなことがあろうとも一緒に頑張っていける仲間であるという確信を持つことができたことが大きかったと思います。その先にDDがあります。ここはすごく大事なポイントだと思っています」