事業売却のポイント、人事機能のプラットフォーム化の振り返りと本稿の目的 事業売却のポイントは、「高く・遅滞なく・手離れ良く」という論点が、
第1回で提示された。そのためには人事制度を含む人事機能のプラットフォーム化が有効な手段であることも
第5回の論考で示された。
本稿では、「高く・遅滞なく・手離れ良く」売却するために、人事制度がどのように関わってくるかを、具体的な事例も踏まえて検討してみたい。
人事領域に対する買い手の関心とは? 人事
デューデリジェンスを経験された読者であれば、人事領域のあらゆる組織や人事諸制度、就業条件、コストを分析するとともに、労使関係や従業員トラブル等を調査された記憶があり、買い手の関心領域はとても広い印象をお持ちではないだろうか。しかし、筆者の経験から、ディールの意思決定に影響するのは、最終的には2つの観点に絞られるのではないかと考えている。
1つ目は報酬水準ひいては人件費水準が適正であること。2つ目は、買い手が欲しい専門性・スキルを持った人材(経営層含む)が在籍していることである。他にも
スタンドアロンイシューがあるとか、自己都合退職が多い、時間外労働の管理に問題があるなど、様々な指摘があろうかと思うが、それらは手続きの煩雑さや不適切な管理を是正する手間がかかるだけで、根本的に買うか否かの判断を左右するものではないように思う。
1つ目の論点は、等級・報酬制度の設計や運用方法に深く関わってくる部分であり、2つ目の論点は、職務遂行に必要な専門性・スキルの可視化とタレントマネジメントが関わる領域といえる。今回は、文章量の制約もあり1つ目の論点に絞って考察をしてみたい。
高い報酬水準および人件費水準は円滑な売却を阻害する 報酬や人件費水準が高ければ、その分、同じ売上でも
EBITDAが抑制され、バリュエーション上は不利になる。つまり
■筆者プロフィール■
鳥居 弘也(とりい・ひろや)
マーサー ジャパン 組織人事変革コンサルティング プリンシパル
政府系銀行総研および大手外資系監査法人の組織人事コンサルティング部門を経てマーサージャパン
M&AにおけるHRDDおよびDo by Closeだけでなく、買収後の統合や再編におけるコンサルティングに強みがある
また、単体企業・グループに対する組織診断や人事制度改革の経験も豊富である
著書に「M&Aを成功に導く人事デューデリジェンスの実務」(2019中央経済社、共著)がある
東京都立大学法学部卒