[ポストM&A戦略]

2014年1月号 231号

(2013/12/15)

第61回 経営者のKPIとインセンティブ(上)

 竹田 年朗(マーサー ジャパン グローバルM&Aコンサルティング プリンシパル)
  • A,B,EXコース

  経営者に対する短期あるいは中長期のインセンティブをどのように設定するかは、達成すべき業績の実現に向けて経営者を動機づけるものとして重要な事項であり、報酬を受け取る経営者本人はもとより、経営者をコントロールするガバナンス側の関心も高い。すべての施策には費用対効果の視点が必要であり、それは経営者報酬といえども例外ではない。何をどこまで達成すればどのように報われるか、適切に設定することによって、同じ報酬原資でより大きな効果が期待できるのがインセンティブというものである。
  M&Aの時間軸においては、まずはサイニング前の時点で「達成すべき目標が達成できた時にどのような報酬が受け取れるのか」という観点で買収先経営者のリテンションの議論が進み、次いでクロージング後にいわゆる「100日プラン」が完成して初めて具体的な達成目標が定まり、何をどこまで達成すればどのように報われるかが明確になる、というのが典型的な流れである。
  今回からは、経営者のKPI(Key Performance Index、業績評価指標)とインセンティブについて、必要に応じて基本的なところにも立ち返って解説する。

インセンティブが有効に機能するにはどのような性質を持つことが必要なのか

  インセンティブ(Incentive)とは、直訳すれば「報奨金」「奨励金」といった類のものであり、要するに経営者や従業員が一定の業績をあげた時に、それにふさわしい報酬がもらえる仕組みのことである。より優れた結果を出せばそれに応じてより大きな報酬がもらえるのが基本であるから、インセンティブの対象者は努力して優れた結果を出そうとするだろう。当然、然るべき業績をあげることができなければインセンティブももらえないから、そういう目にあわないようにしっかり頑張る、という効果を生むことも期待される。
  インセンティブには、求められる結果を出す対象期間の長短、付与の仕方、対象者の決め方、支払金額が決まる仕組み、インセンティブとして与えられる経済価値の種類(Vehicle、例えば現金、譲渡制限付株式、ストックオプションなどのこと)などによって、実に多くの種類がある。その使い方もいろいろと工夫されているし、時代によっても変遷がある。
  インセンティブの本質を説明するために、そのような違いを一旦脇に置いて、業績と支払額の典型的な関係を示したのが図1である。これは、実際に世界のあちこちでLTI(Long Term Incentive)やSTI(Short Term Incentive)に比較的良く使われている形状である。ここにはいくつかの重要な概念が含まれているので、図の読み方を解説した後、それぞれ説明する。
(図1)報酬カーブの設定(例示)   図1の横軸は業績、縦軸はインセンティブの支払額である。図の中央部分は、業績が目標どおりの時(on target)に、目標達成時の支払予定額がその通り支払われることを示している。そして、超過達成すれば支払額は増え、未達であれば支払額は減るというのが、図の線が斜めになっている部分の意味である。
  図をさらに詳しく見て行こう。まず、やればやっただけ青天井でもらえるのかと思うと、実はそうなってはいない。この図の場合、業績が目標を2割超過すると、そこから先は支払額が目標達成時の1.5倍で頭打ちになっている。もちろん、ここでいう2割や1.5倍というのは、ケースバイケースで適切に定める性質のものであり、例示である。

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