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[書評]

2015年5月号 247号

(2015/04/14)

今月の一冊 『企業再編の理論と実務 ―企業再編のすべて―』

 土岐 敦司、辺見 紀男 編/ 商事法務/8500円(本体)

今月の一冊 『企業再編の理論と実務 ―企業再編のすべて―』土岐 敦司、辺見 紀男 編/ 商事法務/8500円(本体)  企業再編(M&A)の目的・内容や手法は多岐にわたる。関連する法制度も多く、複雑になっている。さらに日本のM&Aも成熟期を迎え、洗練されてきている。こうした全体像をつかむのに本書は役立つ。

  巻頭論文で、唐津恵一東京大学教授は、日本企業の経営者に資本の規律を意識した経営を行い、M&Aをもっと活発に行うように訴える。経済規模と比較し、まだまだ日本のM&A市場は小さい。もっとM&Aが行われるようになれば、トータルとしての資源分配が効率化され、社会の富の増大、経済成長につながると言うのだ。

  では、どんな企業再編があるのだろうか。本書は、異なるグループ間の再編、グループ内再編、業務提携・共同事業の3つに形態を分類する。さらに異なるグループ間の再編については、経営統合、買収・売却、事業再生とM&Aに再分類し、それぞれの形態ごとに合併、共同株式移転等、株式譲渡・取得といった具体的な手法を当てはめ、企業再編の活用の仕方を解説している。

  本書のユニークなところは、手法ごとに、具体的な事例を各社のリリースなどを基に紹介している点だ。例えば経営統合でいえば、合併を使った新日本製鉄と住友金属工業、共同株式移転を使った新日本石油と新日鉱ホールディングスを対比させ、なぜ、その手法を選んだのかについて背景事情や合理性を説明している。

  リリースを読み込んで新しい内容も紹介されている。J.フロントリテイリングによるパルコの子会社化では、資本業務提携契約が締結され、契約にはパルコの経営体制をめぐる条項が含まれていた。主要株主間で結ばれる株主間契約はよくあるが、買収者(J.フロントリテイリング)と対象者(パルコ)との間で、このような契約が結ばれるのは異例で、法的効果について、様々な考え方があるとされる。

  この点については、田中亘東京大学准教授が検討している。会社と株主間の議決権拘束契約は、経営陣の保身目的に利用される危険があるため、従来の学説は懐疑的な目を向けてきた。しかし、この契約により会社ないしその一般株主、提携の相手方、経営陣の3者にとって利益となることもあるかもしれず、有効説も成り立ち得ると言いつつ、結論は保留し、今後、学説の議論が一層深められる必要があるとしている。

  本書では、企業再編の活用に欠かせない各種の制度も解説されている。会社法、金融商品取引法、独禁法、税法を取り上げる本は多いが、本書はこれらは勿論のこと、M&Aに関連する知的財産権(ライセンス契約、職務発明制度、営業秘密など)や、M&Aの労務(余剰人員の整理、労働条件の統一、労働契約承継法など)も取り上げられている。

  M&A後に労働問題がいくつも起きていることが分かる。代表的な判例も紹介されている。全国各地でタクシー会社の買収を進める第一交通産業は子会社化した佐野第一交通の労働組合を壊滅させるため、子会社を偽装解散させたが、大阪高裁は、法人格否認の理論により、親会社との間の雇用契約関係の存続を認めた。

  投資ファンドが買収後、労働組合対応をめぐりトラブルになったこともある。労働組合法上、使用者は団交応諾義務があるが、親会社、持株会社、投資ファンドについてそれぞれ使用者性の考え方も説明されている。

  本書にはさらに資料編も添えられていて、企業再編を進めるうえで必要とされる各種契約書、開示書類、届出書などの雛形も掲載されている。名称を知っていても、普段はお目にかかったことのない書類がどういうものかが分かって興味深い。それもあって、800頁を超す大著になっている。2001年に出版された『企業再編のすべて』の全面改訂版である。

  編著者の二人は成和明哲法律事務所の弁護士。法律事務所の枠を超えて、テーマごとに適任の弁護士が執筆している。これから企業再編を検討する企業の担当者がM&Aの全体を俯瞰するのに役に立つ。

(川端久雄<マール編集委員、日本記者クラブ会員>)

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