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[書評]

2016年2月特大号 256号

(2016/01/19)

今月の一冊 『グッチの戦略』

 長沢 伸也 編著者/東洋経済新報社/2600円(本体)

今月の一冊 『グッチの戦略』 長沢 伸也 編著者/東洋経済新報社/2600円(本体)  世界には欧州を中心に富裕層を対象にしたラグジュアリーブランドがいくつもある。ルイ・ヴィトン、グッチ、エルメスなどだ。近年、こうしたブランドを有する企業間でM&Aが活発に行われ、巨大コングロマリット企業が出現している。イタリアのグッチを傘下に置く仏ケリングもそうだ。本書は、資本の変遷を縦糸に、またブランド経営を横糸にして、90年余りにわたるグッチのドラマを描いている。

  縦糸のハイライトは1999年から2001年にかけて行われたグッチの買収合戦である。仏LVMHモエ ヘネシー・ルイ・ヴィトンがグッチの業績拡大に注目、傘下に収めようとした。市場で株を取得するなどして34.4%を保有した。敵対的買収を仕掛けたのだ。これに対し、グッチは対抗策として、従業員に自社株を大量に発行し、LVMHの出資比率を25.6%に引き下げた。法廷闘争に持ち込まれたが、それとは別に、グッチにはホワイトナイト(白馬の騎士)が登場する。

  同じくフランスの流通最大手のPPR(ピノー・プランタン・ルドゥート:現ケリング)である。同社は木材取引会社だったが、有名デパートのプランタンを買収するなどして、小売業に業態を変えてきていた。まだ、利益率が高いラグジュアリーブランドには参入しておらず、グッチに関心を寄せた。グッチのトップに、当社の傘下に入れば、イヴ・サンローランのブランドをもつサノフィ・ボーテを買収し、グッチに経営させると提案した。グッチのトップは、LVMHの軍門に下るよりも、PPRの傘下に入った方が、経営の自主性が保障されると判断した。それで、PPRの投資を受け入れ、PPRはグッチ株を40%保有することになった。

  これで勝負がつき、2001年には、PPRはLVMHが保有するグッチ株を買い取ることで和解が成立している。しかし、2004年、グッチのトップらはグッチを去っている。資本の論理と経営の自主性の両立はやはり難しいのだ。

  グッチの沿革も興味深い。グッチは、1921年にイタリアのフィレンツェにつくられた小さな鞄店だ。創業者が英国の高級ホテルなどで働いているときに、富裕層の顧客が手にする旅行鞄など高級品を目の当たりにした。郷里に戻り、良質な鞄を仕入れて販売し、やがて地元の職人を使って、製造するようになった。ローマやミラノにも店舗を構え、デザインと品質で観光客らの人気を呼ぶ。グッチの製品を身に着けた有名女優らが映画に登場するようになる。

  やがて息子の代になり、ニューヨークやロンドンにも進出する。商売は順調に発展していくが、同族経営の争いが表面化してくる。原因は、創業者の死後、二人の息子がグッチの株を50%ずつ保有することになったためだ。後継者がはっきりしないまま、孫も生まれ、株式は分散化していく。

  経営権を巡る対立はついに暗礁に乗り上げ、息子の一人が米投資銀行のモルガン・スタンレーに相談する。そこから中東の投資会社を紹介され、投資会社が株をすべて買い集めることになった。1987年から6年かけて、グッチ一族からグッチ株を100%買い取ることに成功する。「株はグッチ一族で所有すべし」という創業者の教えは反故にされたのだ。

  経営からもグッチ一族は排除され、新しい経営陣の下で事業の再生と拡大を図っていく。これが軌道に乗り、1995年にグッチは上場、グッチ株は人気を集め、翌年までに中東の投資銀行はすべての保有株を売却、巨額の利益を上げた。この上場から4年後に、買収が待ち構えているとは、だれが想像しただろうか。

  本書では横軸のブランド経営を中心に書かれているが、この点は省略する。ただ、グッチのものづくりは日本にも参考になるので触れておきたい。

  グッチはフランス資本になったが、ハンドバックなどの革製品の製造は今もイタリアで行われている。発祥の地、フィレンツェと周辺に工場が集中している。10年以上の経験を積んだ職人たちが手作りで製作に当たっている。馬具の鞍で培われて技術が何世代にわたり受け継がれているのだ。ハンドバックの値段は何十万円もするが、60年は使えるという。「価格は忘れられても、品質は記憶に残る」というグッチの2代目の言葉は今も生きている。

  翻って日本である。安い労働力を求めて、海外に生産拠点が移り、職人技やノウハウも空洞化してきている。メード・イン・ジャパンを守るため、グッチのものづくりを学ぶべきという編著者の主張に耳を傾けたい。

(川端久雄〈マール編集委員、日本記者クラブ会員〉)

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