[企業変革手段としてのM&Aの新潮流]

2021年9月号 323号

(2021/08/16)

第4回 事業ポートフォリオのトランスフォーメーション ~古い領域からのリソース解放/新規領域での事業の柱の創出~

地口 知広(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー)
尾島 健(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 マネジャー)
白鳥 聡(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー 執行役員)
  • A,B,C,EXコース
「古い領域からのリソース解放」および「新規領域での事業の柱の創出」の位置づけ

 急速な事業環境変化の下で、今後、企業がV字回復や再成長を目指していくためには、自社事業のポートフォリオを「①ノンコア領域(不採算領域を含む)」「②既存コア領域」「③将来コア領域」の3領域に区分したうえで、「①ノンコア領域」に係るリソース解放を推進し、解放したリソースや再投資原資を基に「③将来コア領域」への投資を行うことが、事業ポートフォリオ転換の基本的な方針となる。そして、企業の「事業転換・再構築」の取り組みは、一般的には以下に述べる4つの手法の組み合わせにより実現していく。(詳細は先月号を参照)

1.「ノンコア領域における事業の整理」
2.「既存コア領域の収益構造改革、およびビジネスモデル変革」
3.「将来コア領域への投資・育成」
4.「上記1~3を実現するための、構造改革費用や投資費用の捻出」


 先月号では、「2. 既存コア事業の収益構造改革、およびビジネスモデル変革」、「4. 構造改革費用や投資資金の捻出」に重点を置いた。今月号では、「1.ノンコア領域における事業の整理」および「3.将来コア領域への投資・育成」について、詳しく見ていきたい。


古い領域からのリソース解放(「1.ノンコア領域における事業の整理」)が求められる状況/意味合い

 COVID-19の危機への対処、「デジタル、グリーン、コーポレートガバナンス」などさまざまな「トランスフォーメーション」(DX、GX、CX)の必要性に直面し、「古い領域からのリソース解放」を狙った事業・持分整理/売却は必要不可欠なものとなっている。一口に「古い領域からのリソース解放」と言っても、目的や方法によって様々な「リソース解放」が存在する。成長投資に向けた現金確保/長期的視点での事業構成入れ替えに向けて、先を読み、断固たる意思決定を行うことで、積極果敢に不採算事業/非中核事業の売却を進める「リソース解放」という動きもあれば、来るべき「トランスフォーメーション」を遅滞なく、一気呵成に進めるためのガバナンス強化を目的とした完全子会社化や、保有意義が希薄化した自社の持分整理を事前に行うといった「リソース解放」を行うことも必要であろう。

 外的環境変化の激しい中での生き残り、成長を志していく企業の経営者にとって、いかなる考え方、いかなる手法を用いて古い領域からのリソース解放を行っていくのか、を事前に精査し、実行に移していくことは必要不可欠である。今回は大きく、①投資余力確保・事業構成入れ替えに向けた不採算/非中核事業の整理、②企業のガバナンス強化に向けた完全子会社化や自社保有持分の整理に関する考え方や実行手法に関して取り扱うこととしたい。


成長投資余力確保、事業構成入れ替えに向けた不採算/非中核事業の整理

 不確実な時代を乗り切るためのこれからの企業経営において、今まで多くの企業が逡巡してきた「不採算/非中核事業の整理(事業撤退)」を自律的にマネージしていくことの重要性がますます高まってきている。従来、日本企業では「事業撤退」に対して負のイメージが強く積極的に取り組む企業が少なかったが、不確実時代における「耐久力(生き残る力)」を支える最も有効な手段の一つとして「事業撤退」をしっかりと企業経営に組み込んだ企業が生き残っていく。

 経営者にとって「外部環境への対応」「選択と集中」「株主への説明責任」等々、様々な観点から「事業撤退」は経営者として不可避で、かつ、最も重要な意思決定の一つであり、判断の遅れが企業の将来を左右すると言っても過言ではない。

 一方で、「事業撤退」の意思決定は容易ではない。「過去からのしがらみ」「莫大なサンクコスト」「労務問題」「顧客影響」「残る成長事業への影響」など、頭を抱える問題から「意思決定を先送りする誘惑」にかられるのもまた事実である。眼前の事象に応じた「事業撤退」手法と、状況変化に即した判断の考え方を整理し、遅滞なく「最悪を想定し、最善を尽くす意思決定」を行うことは経営者としての重要な責務であることは間違いないであろう。


不採算/非中核事業の整理の考え方や実行のポイント

 「過去からのしがらみ」や「発生する諸問題」を超えて本当に「事業撤退」の意思決定ができるのか、手段の選択をいかに行うべきか、説明責任をいかに果たすのか、経営者の悩みは尽きない。意思決定に際しては、①複数シナリオの相対評価、②インパクトの定量化、がポイントとなる。そもそも「事業撤退すべきなのか」を検討する際には、「事業再生シナリオ」との経済効果の比較が必要となり、「事業撤退」を前提として撤退手段の選択を行う際であっても、複数の「事業撤退」シナリオを比較することで、「ワースト(最悪)シナリオから、ベターな条件を見出す」という発想が必要となる。清算完了までに想定される清算コストを「損失の最大値」と仮定し、当該清算コスト未満を「他社への売却」シナリオの譲歩可能ラインと考えることもできる。「事業撤退」の検討が、初期検討段階なのか、実行段階なのか、によっても精度は異なるが、一定程度合理的なシナリオの前提を置いた上で、様々な変数を考慮し、定量的に比較可能な数値に落とし込む。それにより、企業として進むべき方向性が明確化される。勿論、定量化を行う経済合理性の観点以外にも多角的に各シナリオを相対評価し、最終的な総合判断を行っていくことは言うまでもない。

<図表1:複数シナリオの相対評価>

 「事業撤退」シナリオの相対評価に際して経済合理性以外では、「労働争議リスク」「取引先との紛争リスク」「レピュテーションリスク」「事業撤退完了までのスケジュール」など様々な観点を考慮に入れる必要がある。また、撤退の対象となる事業が、海外現地法人や海外拠点を有する場合、

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