[M&A戦略と法務]

2019年10月号 300号

(2019/09/17)

アメリカ・チャプター11手続における事業譲渡の手法

飯塚 陽(TMI総合法律事務所 パートナー弁護士)
  • A,B,EXコース
1 はじめに

 アメリカの倒産法は、主に米国連邦倒産法(以下「連邦倒産法」という)において規律されている。このうち、チャプター11手続とは、連邦倒産法の第11章に定められている手続であり、会社を再建するための手続である。

 アメリカにおいても、危機に瀕した事業を再建するために、スポンサーに対する債務者の事業の譲渡がしばしば利用されるが、チャプター11手続下での事業譲渡の手法としては、大きく、363条セール(連邦倒産法363条に基づく事業譲渡)と、プランセール(再建計画に基づく事業譲渡)の2種類がある。

 363条セールが行われた事例は非常に多い。(注1)例えば、リーマン・ブラザーズ、大手自動車メーカーであるクライスラーやゼネラル・モーターズといった大企業のチャプター11手続においても、363条セールによる事業譲渡が行われた。(注2)


2 チャプター11手続とは

 チャプター11手続は、債務者又は一定の要件を満たした債権者が申し立てることにより開始され、申立てと同時に、オートマティック・ステイ(連邦倒産法362条)の効果が生じる。オートマティック・ステイは、債務者に対する債権の取立てや担保権の設定・実行などの幅広い行為を停止させるものであり、強力な効果を有している。

 チャプター11手続では、米国内に営業所又は財産(個人であれば居所又は住所)があれば債務者適格が認められるから(同法109条(a))、日本の会社も、米国内に営業所又は財産を有していれば、チャプター11手続を利用することが可能である。また、日本の倒産法制と異なり支払不能・債務超過といった要件は必要とされないため、例えば、労使紛争の解決や将来の訴訟リスクの処理といった目的で申し立てられることもある。

 債務者は、占有を継続しつつ再建を目指し、債権者からの債権届出、再建計画の策定・提出、再建計画に対する投票というプロセスを経て、再建計画が認可されると、再建計画に基づき債務免責等の効力が生じる。


3 363条セールについて

(1)363条セールとは

 363条セールは、連邦倒産法363条に基づいて行われる通常業務外での資産譲渡である。経済的な危機に瀕した会社の事業劣化は早いから、チャプター11申立て後、裁判所の許可により迅速に事業譲渡を実行できる363条セールは、事業再建のための優れた手段である。

 事業の引受先となるスポンサーの選定方法としては、相対取引か、又は競争入札があり、競争入札の場合には、しばしばストーキング・ホース・ビッドという手法がとられる。これは、事前に選定したスポンサー候補との間で、スポンサー契約を締結した上で、入札手続を実施し、入札手続において更に有利な条件のスポンサーを募る方法である。事前に選定されるスポンサー候補は、ストーキング・ホース(当て馬)と呼ばれる。ストーキング・ホース・ビッドを行うことによって、売主は最低売却価格以上で対象資産を売却することができる。他方で、ストーキング・ホースとなるスポンサー候補は、他の入札者よりもデューデリジェンス期間を長く取ることができるなどの点で有利であり、ブレーク・アップ・フィーを定めることで一定程度は保護されることになる。

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