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[【小説】経営統合の葛藤と成功戦略]

2014年1月号 231号

(2013/12/15)

第55回 『統合直前の不満と期待』

 神山 友佑(デロイト トーマツ コンサルティング)

【登場人物】  山岡ファイナンスサービス社は、渋沢ファイナンスコーポレーション社との経営統合を数カ月後に迎えようとする中で、大規模な構造改革の実施に着手していた。経営統合と構造改革の両立という難しい難題を突き付けられる中で、山岡FS社では現場の疲弊や不満が顕在化しつつあった。
  一方で経営統合に対する漠然とした期待感や、目に見える新たな取り組みへの即物的な前向きさも生まれ始めていた。

統合前の負荷とストレス

  経営統合を3カ月後に控えた1月に入り、山岡FS社も渋沢FC社も、日に日に慌しさを増していた。統合準備作業が現場の末端店舗従業員までを巻き込むようになってから久しいが、経営統合直前は顧客説明や各種研修などが立て込むため、個々人の残業時間はピークを迎えていた。
  前線指揮官である支店長らは、従業員一人一人のシフトを調整し、本社から連日のように届く研修や書類調査等の通達指示に何とか応えようとしていた。午前中いっぱい、本社からのメール対応に追われてしまうことも珍しくなく、現場や顧客からは「支店長はいったい何をやっているのか」というような声も上がっていた。
  また年が明けてからは、特に若手社員や女性の中堅社員らがストレスを溜めてしまい、店舗内の雰囲気がとげとげしくなってしまう店も少なからずあった。原因はほとんどの場合、働く意欲と能力に乏しいローパフォーマー社員である。そのような社員はこれまでも店舗内で問題視はされていたものの、定常業務内では折り合いをつけて皆が「そういうものだ」と割り切って仕事が回っていた。しかし慣れない統合準備作業に忙殺され、日々の残業も重なるなかで、これまでの寛容さは日に日に薄れ、ローパーフォーマー社員に対するいら立ちが募っていたのだ。

不安と不満のスパイラル

  意欲の問題、能力の問題など、周りの社員が感じる問題意識はさまざまである。それまでは「軋轢を生みたくない」という共通認識の中で、支店長がカバーし丸く治め、また優秀な社員が率先してサポートすることで店舗運営は円滑に進んでいた。これは山岡FS社と渋沢FC社で大きな差異はない。自然と助け合うことが美徳であり、人よりも多くの仕事をこなせる社員は尊敬を集めることでうまく回っていた。
  しかしやり慣れない激務と、経営統合に対する緊張感のなかで、それまで持っていた共通価値観が少しずつ壊れかけていた。若手から慕われる優秀な支店長や先輩社員が希望退職に応募する一方で、ローパーフォーマー社員が相変わらず非協力的な態度で悪態をつきながら、それでも新会社に居残ろうというような店舗では、共通価値観の崩壊が顕著に現れていた。そのような店舗では、特にそれまで柱となって働いていてくれた人材の心の中で、何かが変わってしまったかのようだった。
  支店長は本社からの対応に追われ、個々の従業員と十分なコミュニケーションをとることさえもできていない。以前は、
  「色々な人がいるが、家族のような気心の知れたチームワークで働けるこの店が好き」
  「人よりも頑張っていれば自ずと活躍が認められ、着実に報われると感じている」
  という声が、従業員から支店長に寄せられていた。しかし年が明け、どこか殺伐とした雰囲気に変わった店舗では、
  「経営統合で何もかもが変わろうとしている」
  「忙しさにきりがなくなっている。頑張っても報われる気がしない」
  「これ以上、この職場で働き続けるのがつらい」
  というような訴えを支店長はぶつけられていた。女性従業員から急きょ面談を申し込まれ、目に涙を浮かべられながら話を聞くことになった支店長も珍しくなかった。
  経営統合の準備作業はあくまでも一過性のものであり、統合後はいつもの定常業務に戻るはずである。支店長もその点を繰り返し説明していた。しかし経営統合を機に、これまでのものが大きく変わり、何か想像以上に居心地の悪いものに変わってしまうというように思い込んでいる社員は多かった。希望退職等のリストラクチャリングも実施されたこともあり、心の奥底に感じている得体のしれない恐怖心がそうさせているようだった。
  一部の店舗では、冷静さを失った混乱が歯止めなく生じ、感情的なぶつかり合いや退職が増えつつあった。

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