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[マールインタビュー]

2013年12月号 230号

(2013/11/15)

No.162 人的資本論を原点に日本の会社法学の最前線を切り開く

 田中 亘(東京大学 准教授)

田中 亘(東京大学 准教授)

[1]組織再編の差止め

-- 先生は法制審議会会社法制部会に参画されました。少数株主の救済手段として新たに組織再編の差止請求制度が導入されます。どんな議論がありましたか。

  「組織再編の差止めは以前から学説上議論があったところです。現行法上、株主総会決議を省略して行うことができる略式組織再編の場合には、株主総会の代替的な救済措置として差止請求の規定(784条2項)が明示的に設けられているのですが、一般的な組織再編の場合は規定がありません。それで規定がない以上は差止めができないという考え方と、いろいろな解釈論を使ってできるという議論があり、今回、何らかの形で立法的な解決を図ろうとしたのです。審議の過程では、略式組織再編と同じように、対価の適正さ(相当性)に不服がある株主にも差止請求を認めるかどうか議論になりました。これに対しては、企業再編を萎縮させるとか、濫用される恐れがあるとかで経済界の反対もあったのですが、何よりも裁判所の委員から短期間で審理をするのは困難だという意見が出て、議論の方向性が決まったような気がします」

対価の相当性は争えない

-- 「組織再編の差止めとなると、何百億円、何千億円といった大きな企業価値が問われる。仮処分の手続きでは、原審(1回目)の審理期間は2週間しかない。双方の主張立証に10日ぐらいかかるので、裁判所は3、4日で決定しなければならない」と。議事録をみると、裁判所の方はそうおっしゃっていました。

   「結局、差止請求をできるのは、組織再編に法令又は定款違反がある場合に限定し、対価の相当性は対象から除くことになりました。相当でない対価を交付することは、取締役の善管注意義務(330条)や忠実義務(355条)に違反するので、法令に含まれるとも解釈できるのですが、部会では組織再編の場合の法令違反には、善管注意義務違反や忠実義務違反を含まないと念押しをしています」

-- 法文はまだ見ていませんが、略式組織再編の差止請求では784条2項は1号と2号があり、1号は法令又は定款違反、2号は対価の相当性について規定しています。組織再編の差止請求では1号だけで、2号はないと言うことですか。

   「その理解でいいかと思います。2つの条文の比較から、一般の組織再編では略式組織再編のような対価の相当性は争えないと解釈できます。ただ、厳密に考えると不確実な点も残っています」

-- 昔よくあった日本的対等合併で、企業価値は大きく違うのに合併比率は1対1。吸収合併されるほうの会社の役員は全員、存続会社の役員に鞍替えといったようなケースでも差止請求は門前払いになるのですか。

   「その場合でも、独立当事者間の合併だと難しいと思います。ただ、今はもうこのような合併は株主総会の承認を得られないでしょう」

-- M&Aに関係する者にとって関心の高いテーマなので、もう少しお尋ねします。結局、どのような場合に使われそうですか。

   「会社法が定めている手続きを遵守していない場合は争えます。組織再編を承認する株主総会決議をへていない場合はもちろんですが、総会決議をへていても取消事由がある場合も、差止請求ができる可能性があります。大株主など特別利害関係人の議決権行使によって著しく不当な決議がなされた場合などです。この場合、決議取消の判決が確定して初めて決議がないことになりますので、それまでは差止請求ができないとも考えられますが、実際の裁判は、本案の訴訟の結論を先取りする仮処分の形で争われます。そこで、決議取消訴訟と、決議が取り消された場合の組織再編の差止請求の両方を本案と考えることにより、差止めの仮処分を求めることができる、という解釈がありうるように思います。ただ、特別利害関係人の議決権行使により著しく不当な条件で組織再編が承認された場合については、会社法制の見直しに関する中間試案で、対価の不当性一般については差止事由にしないとしてもこの場合だけは差止請求することができるようにするべきだという提案がなされたのですが、結局、対価の不当性は短期間の審理では判断できないという理由で見送りになった経緯があります。その経緯も考慮しますと、解釈上、この理由による差止請求はできない、という考え方もありうると思います。この点は、今後の解釈問題になるかもしれません」

-- 他にもありますか。

   「米国で差し止められるケースは、開示資料の不実開示や重要事項の不開示などが多いのです。第三者評価機関の適正なチェックを受けていると開示しているけれど、それがいい加減だといって差止めを求めることもあります。こうした場合、裁判所から真実を開示するまで組織再編を進めてはならないと差止命令が出ます。日本でもこうした使われ方が考えられます。金融商品取引法が定める開示義務の違反は法令違反になるからです。最近、組織再編ではないのですが、MBOの公開買付けの事件で東京高裁の判決がでています(東京高判平成25・4・17判例時報2190号96頁)。その中で、取締役は株主に対して適正な情報を開示する義務があると指摘し、義務違反を認定しています。組織再編でも親子会社間のように利益相反のあるケースだと、同じような義務を裁判所が認める可能性があります。適正情報開示義務の範囲は必ずしも明確ではないのですが、重要な事実を開示していないとして少数株主が差止請求を起こす可能性はあります。ただし、裁判所の解釈では、この義務は善管注意義務の一環として認められるものですので、先ほど述べた『法令』の違反に善管注意義務違反は含まないという解釈からすると、この理由では差止請求ができないことになります。ただ、会社法制部会の審議においてこの問題について意識されていたかは疑問で、やはり、今後の解釈問題になる可能性があります」

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