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(2025/09/05)

TOB・MBO案件にも活用できる表明保証保険の現状と課題

~実績が増えるほどより便利なツールに進化する

宍倉 浩司(マーシュ ジャパン株式会社 プライベートエクイティ&M&Aサービス担当 執行役員)
犬塚 雅人(同 シニアバイスプレジデント)
鬼頭 里枝(フリーアナウンサー)(司会進行)
左から宍倉 浩司氏、鬼頭 里枝氏、犬塚 雅人氏
左から宍倉 浩司氏、鬼頭 里枝氏、犬塚 雅人氏
国内外でM&A市場が活発だが、表明保証保険は、万が一の損失に備えるだけではなく、交渉をスムーズに行うためのツールとしても活用できることから、最近ますます注目が高まっている。国内でも、PEファンドがポートフォリオカンパニーをエグジットする際に、表明保証保険の活用を前提としてオークションが行われるなどの状況が、ごく当たり前に見られるようになった。表明保証保険の手配に豊富な経験とノウハウを持つマーシュジャパン株式会社の宍倉浩司氏と犬塚雅人氏が、フリーアナウンサーの鬼頭里枝氏の司会進行のもと、現状のマーケット状況や将来的な展望について語り合った。

PEファンドとともに発展した表明保証保険

鬼頭 今回、司会をお引き受けするにあたり、事前に表明保証保険に関する書籍や記事に目を通してきましたが、やはりM&Aの実務を知らないと理解するのは難しいですね。犬塚さん、改めて表明保証保険について、簡単にご説明いただけますか?

犬塚 M&Aの際の株式譲渡契約書(以下、「SPA」)に、当該取引に関連する各種の事実についてセラー側に当該事実が真実かつ正確であると表明させ、当該事実が異なる場合(表明保証違反)には、バイヤー側は損害賠償などの請求を可能とする補償条項が規定されますが、これらは「表明と保証」といわれています。表明保証保険は、この「表明と保証」にすっぽりと保険をかけるようなイメージですが、保険によってクロージング後に何らかの表明保証違反が判明した場合などに、被保険者(一般的にはバイヤー)に対して保険金が支払われることになります。

鬼頭 なるほど、あまりいい例えではないと思いますが、中古車を販売する際に、販売店が保証を付けて売るようなイメージでしょうか? そもそも、表明保証保険は、M&Aの世界を知らない人にとっては、あまり馴染みのない保険商品だと思いますが、いつごろから販売されたのですか?

宍倉 中古車の販売のたとえは、言い得て妙ですね。発売時期については、保険業界で表明保証保険に関しては生き字引のような存在になっている私からご説明しましょう。この保険は、非上場企業の取引において、従来セラー側に課せられていた補償義務を補完または代替するためのツールとして、1990年代後半に米国で最初に販売されました。当初はオークションで売り手に対してより魅力的なオファーをするために、プライベート エクイティ(以下、「PE」)のバイヤーによって主体的に活用されました。しかし、保険の活用の主な担い手は、長期的な補償義務のために投資家の資金を留保できない、または投資家に速やかに配当しなければならないPEのセラーに移行していくこととなります。従って、表明保証保険はPEのために開発され、PEとともに発展した保険商品と言っても過言ではありません。

宍倉 浩司氏
鬼頭 表明保証保険のルーツはアメリカでPEとともに発展した保険商品なのですね。それでは、日本では、いつごろから発売されたのでしょうか?

宍倉 日本では、AIU保険会社(現AIG損害保険)が2003年から2004年にかけて、認可を取得して発売を開始したことが、この保険の起源だと言われています。ただし、発売当初は保険料率が保険限度額に対して5%以上とかなり高く、保険の引き受けの審査が全て英語で行われていたため、ほとんど活用されていませんでした。

大手損保4社が参入した国内M&A保険

鬼頭 そのような変遷をたどった保険商品が、ここにきて日本国内で急に認知度が高まり、活用するケースが大幅に増えている理由は何なのでしょうか?

犬塚 2020年より以前は、表明保証保険の引き受け手は外資系の保険会社に限定され、引受審査は英文のSPAやデューデリジェンス(DD)レポートをベースに行われ、これらが和文で作成されている場合に保険を活用する際には、少なくともSPA全体とDDレポートのエグゼクティブ・サマリーの英訳が必要でした。また、保険の審査過程の中で行うアンダーライティングコールも英語で実施され、保険の活用を前提とすれば、英語対応が可能なアドバイザーを起用する必要がありました。そのような中、2020年初頭に、日本の損害保険会社として初めて、東京海上日動火災保険(以下、「東京海上」)が国内M&A取引向けの表明保証保険(以下「国内M&A保険」)の発売に踏み切りました。

鬼頭 その他の損害保険会社は、国内M&A保険を取り扱っていないのでしょうか?

犬塚 東京海上に続いて、他の大手損害保険会社3社も相次いで国内M&A保険の認可を取得し、発売を開始しました。さらには、アリアンツ火災海上保険(以下、アリアンツ)がオーストラリア発のMGA(保険会社やロイズシンジケートのキャパシティを使い引き受けの審査を行う専門代理店)であるFusionのサポートを得ながら、2024年の第1四半期から国内M&A保険の引き受けを開始しました。2025年5月末時点では、国内の大手損害保険会社4社とアリアンツのキャパシティをフルに活用した場合、200億円を超える保険限度額での保険手配が可能となっています。

国内M&A保険は大型案件でも活用が可能

鬼頭 今では、他のメガ損保や外資系損保も国内M&A保険を取り扱っているのですね。200億円を超える保険限度額と言われても、あまりピンときませんが、かなり大きな数字と捉えて良いですか?

犬塚 表明保証保険の保険限度額は、企業価値(EV)の10~30%の範囲で設定されることが一般的です。仮にEVの10%で保険限度額を設定して、200億円の保険限度額をフルに活用した場合、2000億円程度のEVの案件に対する国内M&A保険の手配が可能になります。このような規模の案件であれば、おそらくその年におけるM&Aのディールサイズのランキングで、ベスト10入りする可能性もあるのではないでしょうか。

犬塚 雅人氏
鬼頭 かなり大きな案件に対しても、国内M&A保険の手配ができるのだと理解しました。そうすると、日本の国内では、外資系損保が従来から引き受けを行っていた「表明保証保険」と、2020年に新たに登場した「国内M&A保険」の2種類の保険商品が併存しているという理解でよろしいでしょうか? そのような理解が正しければ、双方の商品の主な違いは何であり、どのような棲み分けが行われているのでしょうか?

宍倉 従来型の「表明保証保険」と「国内M&A保険」の2つの保険商品が存在するという理解は正しくて、両者の決定的な違いは約款・証券・サービス提供が英語か日本語かというところにあると思います。また、表明保証保険の保険証券は海外でも発行可能ですが、国内M&A保険の証券は原則として日本国内でのみ発行可能です。さらに、保険限度額に関しては、国内M&A保険は前言の通り200億円程度が最大となりますが、表明保証保険は案件によっては700~800億円を超える保険限度額での手配も可能です。

犬塚 例えば、200億円を超えるような保険限度額が必要な場合は、選択肢は従来型の表明保証保険に限定されます。外資系の保険会社は日本語で作成されたSPAやDDレポートに対しても引受審査ができるような体制の整備が進んでおり、マーシュでは400億円を超える保険限度額が必要な大型の国内案件で、従来型の表明保証保険を手配した実績があります。また、ターゲット会社が日本にあっても、買い手の所在地が海外であれば、付保規制などを鑑みて海外で保険証券の発行が可能な表明保証保険が選ばれることとなります。反面、必要な保険限度額が200億円未満で、保険の買い手が日本所在企業であれば、言語などの利便性を踏まえて国内M&A保険が選択される場合が多いです。

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