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[対談・座談会]

2021年4月号 318号

(2021/03/15)

[座談会]我が国における支配権争奪戦の現状とあるべき姿

【出席者】(五十音順)
田中 亘(東京大学社会科学研究所 教授)
⽟井 裕子(⻑島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士)
別所 賢作(三菱UFJモルガン・スタンレー証券 M&Aアドバイザリー・グループ統括責任者)
石綿 学(森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士)(司会・進行)
photo

上段左から石綿学氏、田中亘氏、下段左から玉井裕子氏、別所賢作氏

<目次>
はじめに
  1. 最近の支配権争奪戦の事例とポイント
    • (1)
      ユニゾHDに対するHIS、フォートレス・インベストメント・グループ、ブラックストーン、チトセア投資の買収合戦
    • (2)
      ニューフレアテクノロジーに対する東芝D&SとHOYAの買収合戦
    • (3)
      島忠に対するDCMHDとニトリHDの買収合戦
    •  
      グローバルスタンダードに近づいてきた日本のM&Aマーケット
    •  
      3つの取引の法的整理
  2. 対象会社の取締役に適用される行為規範
    • 利益相反構造のない買収類型で買収者から買収提案を受ける際にM&A指針を参照するか
    • M&A指針と取締役の善管注意義務
  3. 特別委員会
    • 利益相反構造のない取引でも特別委員会を設置するケースが増えている
    • 特別委員会を設置する以上はお飾りであってはならない
    • 取締役会と特別委員会の機能の違い
    • 特別委員会は実際に機能しているか
  1. 対抗提案について
    • 対抗提案を考慮したことで対象会社株主の期待利益が大きくなるかを判断基準にするべき
    • 対抗提案者がDDを求めてきたら、応じるべきか
  2. 公正性担保措置としてのマーケット・チェックの必要性
    • 間接的なマーケット・チェックでも有効に機能するか
  3. マジョリティ・オブ・マイノリティ(MoM)条件
    • 増えるパッシブ投資家の割合と公開買付けへの影響
  4. 対象会社による情報開示
    • M&A取引における価格交渉者としての戦略と投資家保護のバランスをとることが重要
  5. 対象会社と買収者との間の合意(取引保護条項)
    • 日本で明確な判例のない取引保護条項の効力
    • マーケット・チェックと取引保護条項の関係
  6. 今後の実務の動向と課題
    • 正しい枠組に基づく自由競争の促進を
    • 競合者の提案を前提としたディールのデザインを
    • M&A指針の運用の確立が重要
    • 企業内部者主導から機関投資家優位の構造へ
    • 公開買付規制は見直すタイミングにきている
はじめに

石綿 「ここ数年、わが国においても上場会社を対象とした買収合戦の事例が目につくようになりました。最近では、ユニゾホールディングス(HD)、ニューフレアテクノロジー、島忠に対する公開買付けに関して買収合戦が行われたのは記憶に新しいところです。そこで本日は、『わが国における支配権争奪戦の現状とあるべき姿』と題して、この分野の第一人者の方々にお集まりいただき、ご意見を伺いたいと存じます。なお、対象会社については上場会社であることを前提とさせて頂き、また、明確な断りをしない限り、対象会社の立場において議論をしたいと考えております。

 本日のパネリストの皆さまのご紹介をさせていただきます。五十音順に、東京大学社会科学研究所教授の田中亘先生、長島・大野・常松法律事務所パートナー弁護士の玉井裕子先生、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 M&Aアドバイザリー・グループ統括責任者の別所賢作さんです。皆さまどうぞよろしくお願いいたします。本日は、大変僭越ではございますが、私、石綿が司会を務めさせていただきます」


1. 最近の支配権争奪戦の事例とポイント

(1) ユニゾHDに対するHIS、フォートレス・インベストメント・グループ、ブラックストーン、チトセア投資の買収合戦

石綿 学(いしわた・がく)

石綿 学(いしわた・がく)

森・濱田松本法律事務所パートナー(日本及びニューヨーク州弁護士)
東京大学大学院法学政治学研究科客員教授
東京大学法学部卒業。シカゴ大学ロースクール(LL.M.)卒業。M&A/企業再編、コーポレートガバナンス、危機管理を含む会社法務全般を取り扱う。経済産業省の「企業価値研究会」委員、「公正なM&Aの在り方に関する研究会」委員、「事業再編研究会」委員、金融庁の金融審議会金融分科会第一部会公開買付制度等ワーキンググループ専門委員などを務めた。『公正なM&A の在り方に関する指針』の解説(商事法務2020年、共著)、『日本の公開買付け-制度と実証』(有斐閣2016年、共著)、『M&A 法大系』(有斐閣2015年、共著)など著書・論文多数。

石綿 「はじめに最近の事例を紹介させて頂きます。まず、ユニゾホールディングス(以下、「ユニゾ」という)を巡る買収合戦について取り上げます。ユニゾは不動産事業やホテル事業を営んでいる企業です。このユニゾに対し、2019年7月10日にエイチ・アイ・エス(HIS)から、ユニゾの同意なく公開買付けを開始することが公表されました。いわば敵対的公開買付けが公表されたことになります。買付価格は3100円、買付上限の割合は45%と、上限付きの敵対的公開買付けです。ユニゾではこれを受けて7月16日に特別委員会の設置がなされました。

 特別委員会の交渉権限について、直接的交渉権、間接的交渉権を含め、実質的に交渉に関与する『交渉関与型』とそれ以外の『交渉非関与型』に分けた場合に、ユニゾの特別委員会は『交渉非関与型』でした。ユニゾは一旦公開買付けの意見表明を留保した上で、8月6日に反対の意見表明を行いました。その間、ユニゾは、複数の候補先に対して積極的なマーケット・チェックを行い、その結果、一旦フォートレス・インベストメント・グループ(以下、「フォートレス」という)を選定しました。フォートレスによるユニゾへの公開買付けは、8月16日に公表され、ユニゾはこれに賛同の意見を表明しました。フォートレスの公開買付けは上限が付されておらず、買付価格は4000円でした。その後、HISによる公開買付けは失敗に終わったわけですが、フォートレスの公開買付け継続中にブラックストーンという新たな第三者による買収提案が行われました。この買収提案は当初、秘密裏に行われたわけですが、その後、9月27日に公表されることとなりました。いわゆる『パブリック・ベアハグ』(公開買付提案)が行われたわけです。ブラックストーンの最初の提示価格は5000円でした。その後、ユニゾの株主であった米ヘッジファンドのエリオット・マネジメントから質問状が公表されたり、フォートレスが価格を4100円に上げるといった形で事が進みまして、最終的に、ユニゾは、フォートレスに対する賛同の意見を撤回して反対に転じ、チトセア投資という会社による公開買付けに賛同の意見を表明しました。チトセア投資という会社は、米投資ファンドのローン・スター系の会社がスポンサーとなって資金を拠出していますが、従業員が株主になっている会社であり、その意味では、チトセア投資による買収は、Employee Buyout、いわゆるEBOに該当します。その後、ブラックストーンが徐々に提示価格を上げていき、最終的には6000円まで上げました。フォートレスは5200円まで上げましたが、公開買付けは不成立に終わりました。それに対して、チトセア投資は最終的に6000円まで上げまして、その結果、チトセア投資の公開買付けが成立したという案件です」(ユニゾホールディングスを巡る支配権争奪戦の経緯は座談会末尾を参照)

(2)ニューフレアテクノロジーに対する東芝D&SとHOYAの買収合戦

石綿 「続いて、ニューフレアテクノロジーの件です。ニューフレアテクノロジーは、半導体製造装置の開発、製造、販売を営む企業です。ニューフレアテクノロジーの株式のうち52.4%を保有する親会社は、東芝の100%子会社である東芝デバイス&ストレージ(以下、「東芝D&S」という)でした。ニューフレアテクノロジーの残りの株式のうち15.8%は、東芝機械(当時)(現芝浦機械)が持っていました。2019年9月上旬に東芝D&Sからニューフレアテクノロジーに対して公開買付けに関する提案書が提出され、9月18日にニューフレアテクノロジーに『交渉関与型』の特別委員会が設置されました。その後、特別委員会による交渉や賛同意見表明の勧告などのプロセスを経て、最終的には11月13日に東芝D&Sが1万1900円を買付価格とする上限のない公開買付けの開始を公表いたしました。これに対し、12月13日にHOYAから前提条件付きの公開買付け(買付価格は1万2900円。上限なし)の開始予定、いわゆる『予告TOB』が公表されました。公表時点では公開買付けの開始自体は決定せず、前提条件が充足すれば2020年4月に公開買付けを開始することを明示するものでした。その後、12月20日に東芝D&SにおいてHOYAの公開買付けに応募をしない方針を決議したことを発表。東芝機械(当時)がそれを受けて東芝D&Sの公開買付けへ応募をすることを決議しました。その結果、ニューフレアテクノロジーにおいても、東芝D&Sの公開買付けに対する賛同意見表明を維持し、1月17日に東芝D&Sによる公開買付けが成立したという案件です」(ニューフレアテクノロジーをめぐる支配権争奪戦の経緯は座談会末尾を参照)

(3)島忠に対するDCMHDとニトリHDの買収合戦

石綿 「最後は、島忠についてです。島忠は、家具・インテリア雑貨、ホームセンター商品の小売業を営む企業で、一部アクティビスト株主が株付けをしていましたが、基本的には特に大株主がいない会社でした。島忠は、2020年6月ごろからホームセンター業界大手のDCMホールディングス(以下、「DCM」という)との間で経営統合の協議を開始しました。10月2日にDCMとの間での経営統合契約を締結し、DCMによる公開買付けが始まりました。買付価格は4200円、上限はありませんでした。島忠においては、DCMとの経営統合に関し、『交渉関与型』の特別委員会が設置され、特別委員会による交渉や賛同意見表明の勧告などのプロセスを経て、島忠の取締役会において賛同意見が表明されました。これに対し、10月29日にニトリホールディングス( 以下、「ニトリ」という)から対抗公開買付け開始予定、経営統合・完全子会社化提案が公表されました。ニトリによる公開買付けは上限がなく、買付価格は5500円でした。島忠の取締役及び特別委員会はそれぞれ直接ニトリと交渉を行い、最終的には11月13日に、島忠取締役会はDCMの公開買付けに対する賛同意見表明を撤回し、ニトリの公開買付けに対する賛同意見を表明し、島忠は、ニトリとの間で経営統合契約を締結いたしました。最終的にニトリの公開買付けは成立しましたが、ニトリの買付価格の高さにもかかわらず、買付後のニトリの株券等所有割合は77.04%と意外にも低い割合で終わりました。

 以上、直近の3つの案件をご紹介させて頂きました。それでは、まず別所さんのほうから、これらの案件についてどのような印象を持っていらっしゃるか、また、このような買収合戦が起きるようになってきた背景や理由について、お考えを頂戴できますでしょうか」(島忠をめぐる支配権争奪戦の経緯は座談会末尾を参照)

グローバルスタンダードに近づいてきた日本のM&Aマーケット

別所 「別所です。本日はよろしくお願いいたします。

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