1. 岸田政権下の経済対策
政府は、2023年11月2日に「デフレ完全脱却のための総合経済対策~日本経済の新たなステージにむけて~」(以下、「総合経済対策2023」)を閣議決定した。これは、2023年6月16日に閣議決定された、「経済財政運営と改革の基本方針2023」(以下、「骨太方針2023」)から幾分修正が加えられ、12月に閣議決定が予定されている、政府予算案および次年度の税制改正大綱の他、制度・規制改革などを含む総合的な経済対策である。
「骨太方針」とも呼ばれる「経済財政運営と改革の基本方針」は、政府の経済財政政策に関する基本的な方針を示すとともに、経済、財政、行政、社会などの分野における改革の重要性とその方向性を示すものであり、内閣総理大臣が経済財政諮問会議に諮問し、同会議における審議・答申を経て、閣議決定される。
毎年の税制改正は、「経済財政運営と改革の基本方針」に示された経済財政政策の方針に従い、政府税制調査会での審議や9月以後に出揃う各省庁や経済団体等の税制改正要望や、11月に取りまとめられる総合経済対策の内容を踏まえて、12月の税制改正大綱(与党及び政府)にまとめられる。
平成24年12月に組閣された第2次安倍内閣以後、我が国では自民党政権による経済財政政策が行われているが、持続的な経済成長を目指す「成長戦略」を推進した安倍内閣、GXとDXによる構造改革を成長の原動力とした菅内閣、成長と分配を実現する新しい資本主義による持続的成長を目指す岸田内閣、と経済政策の柱においてそれぞれの内閣の特色も見られる。
令和3年度の骨太の方針は菅(義)内閣の下で閣議決定されたものだが、令和3年10月に第1次岸田内閣が発足したため、岸田政権が主導する「新しい資本主義」実現の税制改正は、令和4年度税制改正大綱(2021年12月10日決定)以後となる。2023年12月上旬に閣議決定が予定されている令和6年度税制改正は、岸田政権下で3度目の税制改正である。
【図表1 過去5年間における「骨太の方針」の表題】年度(閣議決定) | 内閣 | 「骨太の方針」の表題 |
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令和5年度(令和5年6月) | 第2次岸田内閣 (第1次 令和3年10月4日~令和3年11月10日、第2次 令和3年11月10日~) | 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~ |
令和4年度(令和4年6月) | 新しい資本主義へ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~ |
令和3年度(令和3年6月) | 菅(義)内閣 (令和2年9月16日~令和3年10月4日) | 日本の未来を拓く4つの原動力~グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策~ |
令和2年度(令和2年7月) | 第4次安倍内閣 (平成29年11月1日~令和2年9月16日) | ~危機の克服、そして新しい未来へ~ |
令和元年度(令和元年6月) | ~「令和」新時代:「Society 5.0」への挑戦~ |
2. 骨太方針2023の基本方針と税制措置
骨太方針2023では、新しい資本主義の加速に向けた人的投資と官民連携した投資の拡大を経済政策の中心に据えている。具体的には、「新しい資本主義の実現に向けた構造的賃上げの実現や人への投資、分厚い中間層の形成に向けた取組や、GX・DX、スタートアップ推進や新たな産業構造への転換など、官と民が連携した投資の拡大と経済社会改革の実行に向けた基本方針を示す」こととし、「リ・スキリングによる能力向上の支援など三位一体の労働市場改革を実行し、構造的賃上げの実現を通じた賃金と物価の好循環へとつなげる。」ことを目指す。
「三位一体の労働市場改革」とは、
■筆者プロフィール■

荒井 優美子(あらい・ゆみこ)公認会計士/税理士
コンサルティング会社、監査法人勤務後、米国留学を経てクーパース&ライブランド(現PwC税理士法人)に入所し現在に至る。クロスボーダーの投資案件、組織再編等の分野で税務コンサルティングに従事。2011年よりノレッジセンター業務を行う。日本公認会計士協会 租税調査会(出版部会)、法人税部会委員。一橋大学法学部卒業、コロンビア大学国際公共政策大学院卒業(MIA)、ニューヨーク大学ロースクール卒業(LLM)。