[Webマール]

(2025/03/28)

東証が「MBO新ルール」を導入する意図と背景

池田 直隆(東京証券取引所 上場部企画グループ統括課長)
中村 咲百合(同 上場部企画グループ)
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池田氏/中村氏
東京証券取引所の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」において、「MBO・支配株主による完全子会社化に関する企業行動規範の見直し」が議論されており、2025年2月18日、企業行動規範の見直し案が公開された(https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/nlsgeu000006gevo-att/um3qrc000000t58k.pdf)。見直しの詳細は4月上旬にも示され、パブコメを経て7月を目途に施行される。本インタビューでは、制度見直しの狙いや考え方を聞いた。
制度見直しの背景

―― 「MBO・支配株主による完全子会社化に関する企業行動規範の見直し」を実施することになった背景・経緯を教えて下さい。

池田 「東京証券取引所は2022年4月に市場区分の見直しを行い、翌年の2023年3月には、プライム市場およびスタンダード市場に上場するすべての企業に対し、『資本コストや株価を意識した経営の実現』に向けた対応を求めるなど、さまざまな取り組みを進めてきました。

 現在では、プライム市場に上場する企業の9割以上が資本コストや株価を意識した経営に向けた取り組みの内容を開示・検討しており、多くの上場会社において、株主や投資家の目線を踏まえた経営を推進いただけるようになってきていると感じます。

 一方で、ここ数年で、『これまでは上場を続けてきたが、投資家や市場と向き合いながら経営するのは容易ではない』と考える企業が増え、時代の空気が大きく変わってきたとも言えます。

 こうした中で、MBOも着実に増えてきており、今後もその傾向は続くと見られます。

 もちろん、上場か非上場か、どちらが良い悪いという単純な話ではありません。経営の効率性や企業戦略を踏まえ、『上場を続けるのは自社に合わない』『非公開化のほうが望ましい』と判断する企業が出てくるのも自然な流れです。

 上場していること自体が企業にとって負担となっている場合、株主・投資家に資金を返して、投資家は新たな上場企業へ資金を振り向けるといった資金循環が促されることで、結果として経済全体の活性化にもつながると考えています。

 このような市場のダイナミズムは非常に重要だと考えています。よく『上場企業数が減るのは良くないと思っているのではないか』と聞かれますが、必ずしもそうは思っていません。むしろ、さまざまな動きが生まれ、新陳代謝が活発に行われる市場のほうが健全だと考えていますし、『上場企業の数ではなく質を重視』という方針も常々申し上げています。

 今回の見直しは、市場区分の見直しや資本コストや株価を意識した経営の推進など、一連の改革の流れの中に位置づけられるものです」

―― 親子上場についてはどのような考え方を持っているのですか。

池田 「投資家との対話の中では、多角的に事業を展開する企業における事業ポートフォリオのあり方が頻繁に話題に上ります。以前から『日本企業は多くの事業を抱えているが、収益性の低い事業の整理がなかなか進まない』と指摘されてきましたが、近年では事業構造全体をどう見直していくかという点が、より重要なテーマとなってきています。

 そうした中で、投資家が特に高い関心を寄せているのが親子上場に関する問題です。現在、親子上場は230社ほどあるとされていますが、それに加えて、持分法適用会社の形態をとる企業も非常に多くなっています。20〜50%程度の大株主(個人等を除く)が存在する企業は、足もと1000社近くに達しており、これは日本市場に特有の構造で、海外ではあまり見られないケースです。

 もちろん、こうした形態自体が必ずしも悪いわけではありません。ただし、上場子会社には少数株主が存在するため、親会社のグループ経営や全体の事業ポートフォリオを俯瞰したときに、『なぜこの形態を維持しているのか分かりにくい』といった投資家の声が強まっています。

 例えば、...


■池田 直隆(いけだ・なおたか)
東京証券取引所 上場部企画グループ統括課長。2005年4月東京証券取引所入社。入社後、上場審査部を経て、2010年6月より現職。市場区分の見直し、コーポレート・ガバナンスの充実に向けた検討、スタートアップ育成に係る制度整備など、東京証券取引所における上場制度全般に係るルールメイク等を担当。

■中村 咲百合(なかむら・さゆり)
東京証券取引所 上場部企画グループ。2019年4月東京証券取引所入社。上場会社のコーポレートアクションの情報処理を中心とする業務に従事した後、2022年4月より現職。

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