宮永圭一郎 キョウデン代表取締役社長(左)と磯野泰二 カーライル プリンシパル
2024年10月、カーライルがプリント基板メーカー大手キョウデンの株式を取得した。
キョウデンは橋本浩氏によって1983年に設立された。同社のプリント基板は、FA機器、半導体製造装置、アミューズメント機器、有線・無線機器、車載機器など多岐にわたる産業で使用されている。プリント基板業界は、小型で軽量なデバイスにより多くの機能を搭載する方向に進んでおり、回路基板の高密度化や小型化、特に高多層基板やビルドアップ基板への需要が増大している。キョウデンは、こうした市場ニーズに対応する製品を多数提供しており、新製品開発・試作品の性能確認に使用される多品種の試作基板を小ロット・短納期で製造・納品する高度に差別化されたビジネスモデルが評価され、国内の試作基板市場でトップクラスのシェアを確立している。また、各種部品の設計・製造、基板の設計・実装及び部材の調達から、ユニット品と大型装置の組み立てまで一貫して対応するEMS(電子機器受託製造サービス)事業も提供。設計から試作・量産までを一気通貫で支援するプリント基板ソリューションカンパニーである。取引企業数は5500社に上り、売上高(2023年度)は512億円となっている。
同社を設立した橋本氏は、1952年2月生まれ。工業高校卒業後に父が死去したことから、父に代わって一家の大黒柱の重責を担うことになった橋本氏は、試作品用プリント基板を小ロット短期間で仕上げる事業を柱として1983年に起業。「今日から電気屋」を略して企業名を「キョウデン」と付けた。その後、1999年には東京証券取引所市場第二部(現東京証券取引所スタンダード市場)に株式を上場させた。
カーライル傘下で進められているキョウデンの経営改革について、キョウデンの宮永圭一郎代表取締役とカーライルの磯野泰二プリンシパルに聞いた。
- <目次>
- 事業承継をカーライルに託す
- 投資家から見たキョウデンの魅力
- 社長就任を決断した要因
- 半導体マーケットでのユニークな立ち位置
- トランプ関税の影響
- カーライル流PMI
- 経営体制の強化
- 財務、マーケティング改革
- 組織の横串を通す8つの会議体
- 3つの成長戦略
- 4号ファンドの最後の投資案件
事業承継をカーライルに託す ―― 買収のスキームについてお聞かせください。
磯野 「キョウデンは、創業者である橋本浩氏が約3分の2の株式を持ち、残り3分の1が市場で取引されていました。橋本氏は、事業承継を見据え、意思決定をしやすい形にするために、橋本氏の資産管理会社であるクラフトによる
TOBを実施し、キョウデンは2023年10月に東京証券取引所スタンダード市場を上場廃止となりました。
我々が、金融機関からご紹介を受けて橋本氏にお会いしたのは、2024年2月のことです。橋本氏はまだ70代前半で、経営継続に問題はなかったのですが、後継者がいないということで、いいご縁があれば早めに事業を譲渡することを考えたいというお話がありました。
キョウデンは電子機器の企画開発から設計・調達・製造・実装・組立まで一貫して自社工場で行う完全内製型EMSメーカーで、なかでも試作半導体の短納期オペレーションが産業界のR&Dに高く評価されています。日本にも開発型の企業はたくさんありますが、米国も開発型企業が多く、米国市場に大きな成長のチャンスがあるというご提案をしたところ、その戦略に同意していただき、話が継続していきました。同時に、成長戦略だけでなく、事業承継のための経営体制をつくってほしいという要望もありましたから、社長を含む重要なポジションの経営陣の補強に関しても我々がご支援するというお話をし、2024年夏ごろから
デュー・ディリジェンスを行って、2024年10月31日に投資実行に至りました」
投資家から見たキョウデンの魅力
―― 投資家から見たキョウデンのビジネスモデルとその魅力についてお聞かせください。