最近のM&Aの全体感―― ロシアによるウクライナ侵攻から1カ月が経過し、経済の不透明感が増しています。足元のM&Aの動向をどう考えておられるかを伺いたいです。
「M&Aは私の弁護士としての中心的な業務の一つです。メガバンクの統合案件や大型の業界再編案件から小さな案件まで含めれば、おそらくこれまで1000件近くのM&A案件を扱ってきましたし、事務所でも、近年、大小さまざまのM&Aを年間40~50件程度取り扱っていますので、多少のお話をさせていただくことはできるのではないかと思っています。
ウクライナ問題によってグローバルの経済には大きなマイナスの影響が出るでしょうし、それを受けて国内経済も少なからぬダメージは受けざるを得ないと思います。それがM&Aにどう影響するか、単純に件数が減るのか、むしろ売却案件が増えるのか、このあたりはまだ見えていない感じがします。ただし、そのことを除いて現状を整理すると、この10年近く、M&Aの件数は年々増えており、ここ数年で見ればそれがさらに強まっています。コロナによって一時期減りましたが、その後は比較的早い段階で回復しています。レコフデータの調べでも、2021年上半期の日本のM&Aは急増しています。その中でも、M&A仲介会社が主導する事業承継案件の増加には目を見張るものがあります。
ただし、M&A仲介会社によるマッチング型の事業承継にはやや過熱感があるのも事実ですし、やや雑に取り扱われている印象を受ける案件もあります。すなわち事業承継は株主や社長を替えるだけではなくその会社で働いている人が幸せにならないと成功とは言えませんが、正直なところ、そういう意識で案件が取り扱われているのか心配になる案件が散見されるようになってきていると感じています。最近、大手M&A仲介会社における不適切事案もありました。事業承継が粗製乱造にならないよう、適切に軌道修正をしていく必要も強くなってきています。
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■佐藤 明夫(さとう・あきお)
1997年弁護士登録。2003年佐藤総合法律事務所開設。専門は、上場企業のガバナンス、金融、M&A・再編、IPO、ベンチャー/スタートアップ、企業不祥事等。ストラクチャード・ファイナンス、ストック・インセンティブ・プラン、スタートアップ・ベンチャー支援も扱う。慶應義塾大学ビジネススクール講師、ポーラ・オルビスホールディングス社外監査役、GMOペイメントゲートウェイ社外取締役、USEN-NEXT HOLDINGS社外取締役の他、著名企業のアドバイザー・顧問等を多数務める。