MARRが10月2日に公開した記事「
上場企業の事業再編動向(2)」では、上場企業による「買い」（合併、買収、事業譲受）と「売り」（カーブアウト系：事業売却、子会社売却）の動きが、件数と金額、マーケット別に年間推移でまとめられており、上場企業の事業再編動向の実態を把握することができます。当記事によると、2024年1-9月期の「買い」は678件で前年同期比22.8%の大幅増加、「売り」は303件で11.4%増加しており、上場企業の事業再編が活発化してきていることが分かります。
カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイHDへの買収提案にも進展が見られました。セブン＆アイHDは10月10日、食品スーパーや専門店などの非中核事業を統括する中間持株会社「ヨークHD」の設立と、2025年中に社名を「7-Eleven Corporation（仮称）」に変更することを発表し、主力のコンビニエンスストア事業に集中する戦略を打ち出しました。同社は積年の課題であった「事業構造改革」の実現に向けて、大きな区切りを迎えようとしています。
経済産業省が2020年7月に公表した「
事業再編実務指針」の影響もあってか、近年、事業再編の手段としてのM&Aニーズが高まりつつあることを感じます。積極的なM&Aによる「多角化戦略」は既存事業とのシナジー効果や経営リスクの分散が期待できる一方、事業ポートフォリオの複雑化によるマネジメントコストの増大や、経営の質の低下が指摘されています。このような構造的な問題の解消に向けて、企業の「売り」の動きが本格化するか注目されます。
事業会社が求めるM&A人材
事業会社によるM&A人材の採用動向からも、企業変革の兆しが見られます。事業会社のM&A推進業務では、M&Aに関する幅広い知識や技能、経験を備えた人材が必要とされ、それは企業の採用ニーズとして、人材要件にも反映されています。具体的には、必要スキルの項目を見るとソーシングやエグゼキューションといった「ディール実行」に特化した求人はほとんどなく、「戦略策定」「PMI・バリューアップ実行」「ガバナンス構築」などのスキルが追加で求められるケースが大半です。つまり、期待される業務領域は非常に広範囲にわたります。企業は一連のM&Aプロセスに精通した人材を外部から採用することで、M&Aを継続して成功させる組織能力の強化を図り、企業価値向上の実現を目指そうとしています。
買い手の視点だけではなく、売り手の視点も重要
事業会社のM&A担当者は概ね買い手としてM&Aに関わる機会が多く、売り手の視点でM&Aを考えることは後回しになりがちです。筆者は業務の一環で、決算説明資料や有価証券報告書、中期経営計画などに目を通して日本の上場企業のM&Aニーズの把握に努めていますが、これらの資料からも、企業が買い手としてのM&A戦略に比重を置いていることが見て取れます。「投資ファンドではないので売却の必要はない」という意見もあるかと思いますが、M&Aは原則として、売り手が主導する取引です。M&Aで重要な条件交渉や論点整理で頻出する様々なケースは多くの場合、売り手の立場に依拠して協議が進みます。つまり、売り手の視点を持つことはM&Aを体系的に理解する上でも役立ち、また売り手の立場を理解することが、優れた買い手になる第一歩になり得ます。
企業が競争上の優位性を確立し持続的な成長を遂げるためには、経営資源を中核事業の強化や将来の成長事業への投資に集中させることが必要となります。したがって企業の変革を担うM&A人材には、買い手と売り手の両方の視点を持ち、企業・事業全体の目的から逆算して戦略立案・実行できる能力が必要になります。
事業会社にとってのM&Aとは？
企業がM&Aを適切に進め、財務的・戦略的な成功を収めるには、一連のM&Aプロセスを通じて組織全体のM&A能力を磨き上げる必要があります。したがって、これを担うM&A人材には主体的に知識やスキル、マインドをアップデートしていくことが求められています。
最後に、改めて事業会社におけるM&Aプロセスを整理してみましょう。事業会社にとってのM&Aとは、戦略を立て、取引（投資）を行い、企業の価値を高め、事業ポートフォリオの維持もしくはEXIT（売却）までの、一連の行為として定義できます。
なおこのプロセスは、MARR Careerが保有する企業の採用ニーズを踏まえて、M&A人材の転職活動に役立てていただく為に作成した内容であることをご留意ください。次回のコラムでは、この「事業会社のM&Aプロセス」を基にM&A人材のスキルを明確化し、その内容を解説していきます。
MARRには事業会社のM&A実務やスキルに関して、基礎から応用まで様々なテーマや切り口で執筆された記事が数多く掲載されています。以下に本コラムを執筆する際に参考とした記事を紹介します。
（MARR Career運営事務局 泉 繭）
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