[【小説】経営統合の葛藤と成功戦略]

2014年5月号 235号

(2014/04/15)

第59回 『取締役会議長への就任要請』

 神山 友佑(デロイト トーマツ コンサルティング)
  • A,B,EXコース

【登場人物】  山岡ファイナンスサービス社と渋沢ファイナンスコーポレーション社は、経営統合を数カ月後に迎えようとしていた。そんな中で、渋沢FC社の社長であり統合新会社の社長就任が決まっていた飯塚良に、末期癌が見つかった。
  突然の事態に多くの関係者が戸惑う中で、山岡FS社の野澤博人社長は、新会社の行く末を飯塚と経営トップ同士で腹を割って話をすべく、海外での商談を打ち切って緊急帰国した。そして飯塚が入院する病室にて、野澤は思いがけない依頼を受けることになった。

予期せぬ依頼

「取締役会議長として、私に新会社に残れとおっしゃるのですか」
  飯塚からの予期せぬ依頼に、野澤は驚きを隠せないまま聞き返した。
「そうです。これは私の心からのお願いです。野澤さんに取締役会議長の立場から、持株会社運営を切り盛りして頂きたい。旧2社が完全統合・合併する道筋を形作り、そして新経営陣が新たな成長ステージに進むまでを見届けて頂けないでしょうか」
  飯塚は穏やかな表情だが、いつものように真剣な目で野澤の目を見つめながら自らの願いを伝えた。普段から生真面目で「渋沢FC社の天皇」と言われるほど、ある意味では距離感もあり人を寄せ付けない雰囲気を飯塚は漂わせている。それはガウンにカーディガンを羽織った病室姿であっても、少しも弱々しさはなく、対峙するものに緊張感を与えるオーラがあった。
  しかし野澤はこの時、これまでに見たことのない飯塚の醸し出す空気を感じた。新会社設立に向けて、経営トップ同士としてこれまでも多くの苦難を乗り越えてここまで来た。当然ながらその信頼関係は深く、だからこそ野澤は重要商談を投げ捨ててこの場に駆けつけたのだ。だがこれまでの信頼関係さえも一つ越えた何かを、野澤は感じずにはいられなかった。飯塚は限られた時間の中で、ただ一人自らの願いを託せる人間として、野澤に依頼をしているのだ。そこには何の駆け引きもなく、どこまでもまっすぐな気持ちだけがあった。
  野澤は腹をくくり、そして飯塚の真意を深く理解することに決めた。
  

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