前回の振り返り 前回は、レスポンシブル・ビジネスの概要と注目を集めている背景について説明した。アクセンチュアではレスポンシブル・ビジネスを「長期的な競争力とビジネスレジリエンスを担保するために、ステークホルダーの興味・関心を中核ビジネスに反映させる事業」と定義している。すなわち、そのサステナビリティのケイパビリティそのものが競争優位の源泉となることを意味している。今回以降は、レスポンシブル・ビジネスの実現に向けて、企業はなぜM&Aを活用すべきなのか、またどうすれば投資や買収を成功させられるのかという問いに対し、巧みにM&Aを活用している先進企業の事例紹介も交え、解説していく。
レスポンシブル・ビジネス実現に向けたM&Aの重要性 まず前提として、レスポンシブル・ビジネスでは、社会課題を的確に捉え、その解決を通じて成長基盤を構築することにより、社会的価値の創出と企業価値の向上を同時に実現することが求められる。これまで企業が求められてきた連続的/非連続的な財務的成長は、それ自体が容易なものではなく、死力を尽くして実現してきたと言ってよいだろう。その状況にあって、SDGsへの貢献に代表されるような社会的インパクトと両立させるビジネスモデル変革を実現するのは、きわめて難易度が高い。もはや、自社の新規事業開発部門などの対応で実現できるものではなく、社外のケイパビリティも活用した、全社的な変革なしには不可能と言ってよいだろう。それは、過去多くの企業がDXにおいて、M&Aを軸にした外部ケイパビリティ活用なしには対応できなかったことからも想像に難くない。ただ、レスポンシブル・ビジネスは、大きな機会であり、難易度が高い要請ゆえに、早期に変革を実現できれば競合を大きく引き離すことができるだろう。
実際にグローバル先進企業は、M&Aを活用したサステナビリティのケイパビリティ獲得を行い、レスポンシブル・ビジネスを実現しようとしている。
成功事例(1) 近年、サステナビリティの観点を取り入れた製品開発を加速しているスポーツウエアメーカーでは、
■筆者プロフィール■
横瀧 崇(よこたき・たかし)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ M&Aプラクティス日本統括 マネジング・ディレクター
1999年に新卒でソフトバンク株式会社に入社。新規事業の立ち上げなどを経験した後、2004年よりアクセンチュアに参画。ストラテジーグループにて業種横断でM&Aの戦略から価値創出までを一貫して支援するM&Aプラクティスの日本および、アジア太平洋・アフリカ・ラテンアメリカ・中東地区の統括マネジング・ディレクター。通信、ハイテク、自動車、消費財、小売、化学、金融と幅広い業界において、18年以上M&Aにおける価値創出を支援している。
太田 貴大(おおた・たかひろ)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ M&Aプラクティス プリンシパル・ディレクター
アクセンチュア新卒入社後、外資系消費財メーカーを経てアクセンチュアに再入社。国内外の様々な業界のクライアントに対しPreからPost M&Aまで幅広く支援。Japan M&A Conference 2019等の外部向け講演も実施。
林 嘉禾(はやし・よしかず)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ M&Aプラクティス シニアマネジャー
東京大学大学院博士号取得後、外資系コンサルティングファームを経てアクセンチュアに入社。M&A・アライアンスを活用した新規事業立ち上げやデューデリジェンスなどM&A関連のプロジェクトを中心に従事。
田浦 英明(たうら・ひであき)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ M&Aプラクティス マネージャー
約8年間、一貫してコンサルティング業務に従事し、新規事業立上やPMIなどを経験。これまで支援した主な業界は自動車、保険、製造、商社、小売り。
韓 翌雯(はん・いうぇん)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ M&Aプラクティス コンサルタント
独ミュンヘン大学大学院卒業後来日、スタートアップ等を経てアクセンチュアに入社。クロスボーダーM&Aや新規事業立上げ等プロジェクトに携わる。これまで支援した主な業界は金融、通信、製造、ベンチャー。