[寄稿]

2020年7月号 309号

(2020/06/15)

日本の外為法改正と、諸外国における外資規制強化の動きがクロスボーダーM&A実務に与える影響

龍野 滋幹(アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士)
中野 常道(アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士)
田村 将人(アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース
左から中野 常道弁護士、龍野 滋幹弁護士、田村 将人弁護士

左から中野 常道弁護士、龍野 滋幹弁護士、田村 将人弁護士

 近年、中国の国営企業によるEU圏を始めとした国の企業の買収例が増え始めたことに伴い、欧米諸国は自国の戦略産業を防衛するため警戒感を強めてきた。そのような中、世界的な新型コロナウィルスの感染拡大により、一部戦略産業において、このような近年の潜在的リスクがより増大し企業活動への重大な懸念を招いている。その結果、欧米を中心とした諸外国において、海外企業による買収から自国企業を防衛するため、外資規制強化の動きが見られる。このような外資規制強化の流れは日本においても例外ではなく、2020年5月8日に外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」)が改正・施行され、同年6月7日以降適用されている。

 本稿では、日本の改正外為法の概要を述べた上で、日本企業によるクロスボーダーM&A実務へ影響を与えると思われる近時の各国における外資規制強化の実態を整理したい。

 なお、紙幅の関係上概要の説明としており、例外事由など詳細にまで立ち入ってない部分があり、また、本稿は、2020年5月26日時点での情報に基づいているため、実際の事例における外資規制の有無の判断にあたっては、最新の関連法令・規定の原文を確認されたい。


1. 日本

(1) 法改正の背景

 改正前の外為法は、投資自由の大原則の下、一定の対内直接投資につき事後報告を要求しつつ、我が国の安全保障等の観点から重大な懸念があると考えられる限定的な業種につき事前届出を要求していた。

 しかしながら、IT技術の進歩等に伴い、従来の外為法では捕捉していない分野(半導体メモリに関する事業を始めとするサイバーセキュリティ関連事業等)が各国の安全保障等に重大な影響を与えるようになった。そのため、我が国においても、経済の健全な発展につながる対内直接投資を一層促進する一方で、欧米において先行していた外資規制強化の流れも踏まえ、国の安全保障等を損なうおそれがある投資を規制し、技術流出や事業活動喪失を防止すべく、今般の改正に至っている(注1)。

(2) 事前届出の対象の見直し

 今般の外為法改正において、議論を呼んでいる改正点のひとつは、国内の事業者の株式を取得する等の行為を含む対内直接投資における事前届出の対象の見直しであろう。具体的には、まず、外国投資家が、法令の指定業種を営む我が国の上場会社の株式等を取得する場合の事前届出の閾値が10%から1%(会社法上の株主総会における議題提案権の基準であることが理由とされている。)に引き下げられた(注2)。また、新たに、指定業種のうち、コア業種の指定が導入された(注3)。対内直接投資の一層の促進の観点から、一定の場合には事前届出が免除される基準も設けられたものの(一般免除基準、注4)、前記コア業種への投資の場合に事前届出が免除されるのは、株式取得割合が1%以上10%未満であって、一般免除基準に加え、上乗せ基準(コア業種に属する事業に関し、取締役会等に自ら参加しない等)をも充足した場合に限られている。また10%以上の取得の場合には、常に事前届出が必要となることとされた。このような「コア業種」には、国の安全を損なうおそれが大きいとされる業種が指定されており、例えば武器・航空機・宇宙関連等についてはすべて、サイバーセキュリティ関連・インフラ関連等についてはその一部が指定されている。

 本改正は、わが国の上場株式への投資を検討する海外投資家にとっては負担が増える可能性があり、その点大きなインパクトのある改正であるといえる。


2. 米国

(1) 概要

 ここからは日本以外の国における外資規制について触れていく。

 まず、米国であるが、米国における外資規制は米国財務省が所管する外国投資委員会(The Committee on Foreign Investment in the United States。以下「CFIUS」)による審査制度を中心に設計されている。具体的には、CFIUSが、国家安全保障上懸念のある国内資本の買収案件を審査することとされている(注5)。その結果、外国投資家からの投資が米国の国家安全保障に対する悪影響があると判断した場合、CFIUSは、大統領に対して対象取引の中止、禁止又は取消しを命じることを勧告でき、大統領がこの勧告を受けて、当事者に対し命令を発出することがある。

 なお、航空、通信、国防等の9つの産業分野に対しては、前記規制に加えて、外国からの対米投資に関する連邦規制が適用されることがある(注6)。加えて、外国投資の制限が州によって異なるため、州法にも注意が必要である。

(2) 昨今の動き

 近年CFIUSによる規制を理由として案件が中止になったケースも登場し、

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