1. 海外M&A研究会の概要
「日本企業の海外M&Aは近年、件数、金額規模ともに拡大しています。2010年からの増加は円高の効果もあったでしょうが、2013年のアベノミクス政策のもと、円安基調となっても海外M&Aの増加基調は変わりません。増加している要因の1つは、国内の市場機会がこれ以上拡大する見込みがなくなっている一方で、企業がガバナンス改革の成果も含めて収益性を回復し、結果として企業の中に内部留保がたまり、その資金の有効な利用先として海外M&Aが脚光を浴びているようなところがあります。他方で、これまでに実施された海外M&Aにおいて、特に昨年の半ばぐらいまでにいくつか大きな減損事例が目立ち、海外M&Aはリスクが大きい投資であることが注目されるようになりました。こうした海外M&Aの増加と減損事例の発生を背景として、今後の海外M&Aを適切な方向に進めていくにはどういうことが考えられるのか、どういうことが必要なのかについて関心が高まり、これを捉えて経済産業省としては、ことの性格上、政府が何か明確なガイドラインを出すのではなくて、企業の意思決定をサポートするために、海外M&Aに関連する知見を広く集めて、M&Aをすでに実施している企業、これからM&Aに取り組んでいく企業に対して参考となる材料を提示するという意図で研究会が設置されました」
―― 研究会ではどのようなことが議論されましたか。
「弁護士などの実務家、研究者などM&Aに関する有識者が委員となり、毎回、海外大型M&Aを実施した企業を招いてインタビューを行いました。また、事務局が直接企業に出向き、ヒヤリングも行いました。さらに、フィナンシャルアドバイザー(FA)や弁護士など実務家の情報交換会や、経団連にもご協力いただいてM&Aを実施した企業を中心にアンケート調査も行いました。基本的には企業が実施した海外M&Aの成功事例、失敗事例や実務家の知見・ノウハウを広く集めて、成功事例では、どういう企業が比較的うまくいっているのか、それはなぜか。減損や場合によっては撤退したような事例ではどこに問題があったのか、などを議論しました。海外M&Aの実施にあたって成功の確率を高めていくのが狙いで、これだけは対処しておかないと問題が生じてしまうという『成功の必要条件』に近いものを解明することが、1つ、もう1つは、M&Aは目的も多様ですし、企業によってそれぞれM&A案件は特性がありますので、これさえやればよいという1つの解やモデルはない訳ですけれども、どういうことが成功のカギになっているかという『成功の十分条件』らしきものの共通の傾向を導き出し、ポイントの整理をすることが狙いでした。
―― 研究会の一環として、公開シンポジウムも開催されました。
「先ほど申し上げたとおり、政府が明確なガイドラインを出すというのはあまり適切ではなくて、むしろ、海外M&Aを考えている企業経営者のヒントになるような行動指針を提示することを念頭に報告書を作成しました。海外M&Aにおいて経営トップが果たす役割はたいへん大きいわけです。特に、買収の実行局面のみならず、その『前』と『後』の重要性を認識し、統合後の経営まで中期的にわたり腰を据えてコミットしていくことが重要で、この覚悟が海外M&Aを活用したグローバルな企業成長に向けた『9つの行動』の出発点です。サマリーですから読みやすく、忙しい経営者でも移動中や時間があいたときに目を通してもらえます」
2. 日本企業の海外M&Aの現状
―― 研究会を通じてわかった日本企業の海外M&Aの状況を教えてください。
「レコフのデータや資料からもわかっていることですが、・・・