[M&A戦略と法務]

2022年2月号 328号

(2022/01/13)

M&Aを用いたタイ進出時の留意点(外資規制を中心に)

高祖 大樹(TMI総合法律事務所 パートナー 弁護士)
吉井 翔吾(TMI総合法律事務所 弁護士)
  • A,B,EXコース
第1. はじめに

 日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所が2021年3月に公表した「タイ日系企業進出動向調査2020年調査結果」によれば、タイで活動が確認された日系企業は5856社あり、2017年の調査時の5444社と比較して412社増加した。業種別にみると、1位が「製造業(2344社)」、2位が「卸売業・小売業(1486社)」、3位が「サービス業(1017社)」であり、2017年の調査時と比較すると、製造業の企業数はほぼ横ばいであったのに対し、卸売業・小売業、サービス業など、非製造業の企業数の増加が顕著であった。今後も日系企業のタイへの進出が継続することが予想されるが、タイへの進出に際しては外資規制に留意することが必要となる。

 日本法人がタイに進出する手法は、単独で新規に現地法人を設立する方法、タイ法人と合弁会社を設立する方法、既に存在するタイ法人を買収する方法など様々であるが、いずれの場合も、外資規制の問題に直面することがほとんどである。

 筆者らは、日本法人からのご依頼を受け、タイへの進出に関するリーガルサポートを日々行っているが、特に、タイ法人を買収する際のストラクチャリング又はデューデリジェンスにおいて、外資規制の問題に直面することが少なくない。

 そこで、本稿では、タイにおける外資規制について概観したうえで、タイ法人を買収する際に特に留意すべき点について整理する。なお、「買収」の方法も、株式取得、合併、事業譲渡など様々であるが、本稿では紙幅の都合上、株式取得による買収についてのみ取扱うこととする。

 また、以下では、日本で設立された会社を日本法人、タイで設立された会社をタイ法人と呼称する。


第2. 外資規制の概要

1. 外国人事業法

 タイにおける外資規制に係る一般的な法律は、外国人事業法(Foreign Business Act(以下「FBA」という))である。同法は、「外国人」がタイで一定の事業を営むことを原則禁止している。例えば、日本法人が自ら又はその子会社であるタイ法人を通じて、タイ国内で飲食業、各種コンサルタント業、委託製造業、小売業、卸売業等を営もうとしてもすべからくFBAによる規制の対象となる(但し、小売業及び卸売業については、後述のとおり資本金の金額によって一定の例外がある。)。

(1) 「外国人」とは

 FBAの規制の対象となる「外国人」とは、以下のいずれかに該当する者をいう(FBA4条)。

(A)タイ国籍でない自然人
(B)タイ以外の国で設立された法人
(C)株式の50%以上を(A)又は(B)が保有しているタイ法人
(D)マネージングパートナー又はマネージャーが(A)である有限パートナーシップ又は登録普通パートナーシップ
(E)株式の50%以上を(C)又は(D)のいずれかが保有するタイ法人

 なお、「株式」の「50%以上」とは、(議決権ベースではなく)株式数ベースで計算する必要がある点に留意が必要である。

 また、上記(A)から(E)までのうち、日本法人がタイへ進出するにあたって通常問題となるのは(C)と(E)である。

 以下の【図表1】のY社は、上記(C)により「外国人」となる。また、X社には直接・間接を合わせてタイ資本が75%入っているにも関わらず、X社は上記(E)により「外国人」となる。FBAでは、「外国人」か否かは当該法人の株式保有者のみを見て判断されることに留意が必要である。

【図表1】

(2) 規制業種

 「外国人」は、

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