M&A巧者として前向きに取り上げられることが多い会社として、日本たばこ産業(JT)がある。JTは国内のたばこ市場が縮小する中、海外に活路を見出し、M&Aを活用し事業の拡大を図ってきたが、ロシアのウクライナ侵攻や米中対立を背景に、今後はさらなる戦略の変更と「守り」の強化が必要な状況に立たされていると言える。本稿ではJTのM&Aの経緯を振り返りつつ、グローバルM&Aの今後について触れる。
多角化と国際化、2つの路線
JTは、1898年に日本における葉たばこの独占販売のために設置された日本専売局を発祥とし、1949年には日本専売公社となり、日本たばこ産業株式会社法制定を受け、1985年には「日本たばこ産業株式会社」として設立、民営化されている。ただし、現在でも株式の37.58%は国有である。
JTはたばこ市場の縮小や、関税廃止による海外メーカーとの競争激化を背景に、1985年の民営化を契機としてM&Aによる多角化に努めてきた。具体的には、1998年にはユニマットコーポレーション、同じく1998年には鳥居薬品、1999年には旭フーズを買収し、飲料事業や食品事業への進出を図ってきたことが挙げられる。飲料事業については、「桃の天然水」や缶コーヒーの「Roots」といったブランドが一定の存在感を示している。また、2002年にはパンの製造販売を行うサンジェルマン、2008年には冷凍うどんで著名な加ト吉(現テーブルマーク)を傘下に収めた。
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