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ポイント>
〇国内M&Aの注目トレンドとしての「
同意なき買収」と
MBO 〇「同意なき買収」は①高プレミアム、②短期決戦、③劇場型展開のリスク――への準備が必要
〇MBOは上場企業が上場の価値を見直し、中長期視点で大胆に
企業価値を向上させる有効な手段になりうる
〇一方、買収で自社及び買収先の企業価値向上を図るのが本来の「良いM&A」。「同意なき買収」やMBOは次善の策であるべき
連載初回の
前回は、日本のM&A市場拡大の原動力の1つとして
アウトバウンドM&Aを挙げたが、第2回となる今回は、国内M&Aに焦点をあてる。最近の国内M&Aにおける大きなトレンドとして、上場企業の「同意なき買収」とMBOがある。いずれも、正しく活用されれば企業価値・株主価値の向上に資するものの、多くの企業においてあるべき「型」はまだ模索中であり、ベイン・アンド・カンパニーもクライアントから考え方・進め方のご相談をいただくことも多い。本稿では、
TOB・MBOの特徴と正しく活用・対応するためのポイントを論じたい。
「同意なき買収」の浸透 事前に被買収企業の取締役会の同意を得ずに発表される上場企業へのTOBが、従来の「敵対的買収」という呼称から「同意なき買収」という呼称に変化したことの意義は大きい。
経済産業省の指針でも、買収する側、買収される側双方の企業価値向上や株主利益に資する買収は「望ましい買収」と位置付け、そうした買収の提案を受けた企業は真摯に検討するよう求めている。これにより、経営者の保身につながると批判の強かった買収防衛策の抑止が進むことも期待される。「同意なき買収」がこれまでの「極めて特殊な手法」という認識が変わり、国内上場企業へのM&Aにこれまで以上に積極的に取り組める土壌が整いつつある。
具体的には、新指針に基づく昨年8月のニデックによるTAKISAWAの買収が「同意なき買収」の象徴的事例であるが、新指針策定前に起きたニトリによる島忠の買収、昨年末に発表された第一生命によるベネフィット・ワン買収等、事業会社によるディールが動いている。
しかしながら、「同意なき買収」という言葉のとおり、対象会社の経営陣との対話を無視して、むやみに買収を仕掛ければ良いというものではない。「同意なき買収」の特徴である①プレミアムが高くなること、②短期決戦となること、③ガラス張りの”劇場型”となること、の3点を押さえた取り組みが必要となる。
① プレミアムが高くなること 近年の「同意なき買収」による…
■筆者プロフィール■
奥野 慎太郎(おくの・しんたろう)
ベイン・アンド・カンパニー パートナー
産業財・自動車、テクノロジー、消費財、流通等の業界において、M&Aや事業ポートフォリオ戦略、構造改革などを中心に、幅広い分野の経営支援を手がける。ベイングローバル取締役会メンバー、日本法人会長。 産業財プラクティスの日本のリーダー。京都大学経済学部卒業、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。東海旅客鉄道(JR東海)を経て、2003年にベインに入社。
中塚 裕之(なかつか・ひろゆき)
ベイン・アンド・カンパニー アソシエイト パートナー
エネルギー、物流、小売、消費財、ハイテク等の業界において、M&A、事業戦略、デジタル・トランスフォーメーション、新規事業創出、オペレーション改革等の幅広い分野のプロジェクトに携わる。京都大学工学部卒業、同情報学研究科修了。外資系コンサルティングファーム、楽天での事業運営を経てベインに入社。